Plane-to-Rayライトトランスポート計測に基づく皮下血管のリアルタイムイメージングシステム

1. はじめに

シーン中の光の伝搬(ライトトランスポート)は,反射や屈折,表面下散乱や相互反射など様々な要素から構成されており,コンピュータグラフィクス分野ではライトトランスポート理論として古くから定式化されている。また,より実際の計測環境に即した照明と観測装置とを結ぶ光の伝播を示す表現(いわゆるライトトランスポート行列)もしばしば用いられている。ライトトランスポートはその計測を通じてシーンの様々な性質を推定することが可能であるが,膨大な計測回数や時間,保存領域が必要になることが課題である。

そこで,ライトトランスポートをいくつかの成分に大別したうえで,それぞれを個別に計測することが一般的であり,例えば偏光の違いを利用して拡散反射光成分と鏡面反射光成分とを分離する手法1〜3)や,空間的周波数の違いを利用して直接光成分と大域光成分とに分離する手法4)などが知られている。近年では,平行化(rectification)されたプロジェクタ-カメラシステムを用いて直接光と間接光がエピポーラ幾何学的に満たす性質の違いを利用し,個別に取得する方法5, 6)が提案されている。Episcan3D5)はラスタスキャン方式で映像をシーンに投影可能なレーザープロジェクタとローリングシャッター方式のカメラとを時間的に同期させて撮影することで,エピポーラ光と非エピポーラ光を分離したイメージング(以下,エピポーラ画像,非エピポーラ画像)を実現した。

私たちは,Episcan3D5)を拡張し,同様のセットアップを用いて非エピポーラ光として観測される間接光成分に対して,近距離で生じたものか遠距離からのものかを区別して取得する手法を開発し,奈良先端大学,カーネギーメロン大学,及びアリゾナ州立大学の国際共著論文を発表した7)。本稿ではその概要を紹介する。

2. システム概要

図1 本研究で用いるプロジェクタ−カメラシステムの模式図。レーザープロジェクタとローリングシャッターカメラとがエピポーラ平面に沿ってシーンを水平に照明・撮影しながら上下にスイープする。

図1には本研究で使用するプロジェクタ-カメラシステムを模式的に表している。まず,カメラはローリングシャッタ方式のものを用いる。同方式のカメラでは,イメージセンサの上段から下段の列に向けて,一列ずつ順次に露光が行われている。また,プロジェクタはレーザ走査方式のものを用いる。同方式のプロジェクタは,コリメートされたレーザ光源を内蔵された2次元MEMSミラーによって,スキャンライン方式で映像を投影する。MEMSミラーの振動周期は垂直方向に比べて水平方向は十分高速であるため,本研究ではプロジェクタは水平な1行の光を上段から下段の列に向けて順次照明するものとして扱う。

さらに,カメラとプロジェクタは平行化された位置に設置されているものとし,プロジェクタがあるエピポーラ面に沿って照明を照射するとき,カメラが同一のエピポーラ面を撮影し,そのままエピポーラ面を共有しながら上下にスイープする。このときカメラで観測される光線にはエピポーラ光だけが含まれており,結果としてエピポーラ画像を得ることが出来る5)。この原理を応用し,本研究では,プロジェクタとカメラの同期に意図的に遅延時間を挿入することで,照明と観測が一定の距離を保ったまま撮像する。これにより,一定の距離からの間接光成分だけを撮像することが可能となり,その結果として様々な性質の間接光を選択的に取得することができるようになる。

まず,本研究で用いるプロジェクタ-カメラシステムについて説明する。図1に示すようにプロジェクタとカメラを隣り合って設置する。また,プロジェクタとカメラはそれぞれ,ピンホールモデルを仮定する。プロジェクタのスクリーン座標系を(u,v),カメラのスクリーン座標系を(s,t)とおくとき,プロジェクタのある行uを通るエピポーラ平面に当てた照明がシーンから反射し,カメラのピクセル(s,t)を通る光線として観測されるとき,本稿ではその光の伝搬をPlane-to-Rayライトトランスポートと呼ぶ。

シーンで1度しか反射しない,いわゆる直接光は必ずプロジェクタで照明したuに対応するエピポーラ面を通って観測される。一方で,シーンで複数回の反射や散乱を生じる間接光は,必ずしもカメラと同じエピポーラ面に到達するわけではなく,むしろ大部分はプロジェクタの照明と異なる行に対応するエピポーラ面を経由してカメラで観測される5)。このようにシーンにおける直接光や間接光は,照明を当てるエピポーラ面とカメラで観測するエピポーラ面との相対的な距離によって特徴付けられる。

関連記事

  • レーザスライシングによる光学レンズ成形

    著者:埼玉大学 山田洋平 1. はじめに ガラスレンズは,材料の均質性,透過性,耐久性に優れ,カメラや顕微鏡などの光学機器や,内視鏡などの医療機器に欠かせないものとなっている。近年では,自動運転技術やAI技術などの発展と…

    2026.10.14
  • 宇宙の見えないものをレーザー干渉計で探る

    著者:東京大学 道村唯太 1. 宇宙人に左右は伝わるか? この広い宇宙のどこかに知的な存在がいて,私たちと通信ができるとしたら,彼らと「右」や「左」という概念を共有することはできるだろうか。彼らには言葉は通じるが,画像を…

    2026.09.11
  • 日常光デジタルホログラフィ

    著者:情報通信研究機構 田原 樹 1. はじめに 3次元画像計測技術に関する研究開発は長年行なわれている。その内の一つとしてデジタルホログラフィ1)は,単眼で3次元画像情報を取得でき,透明物体等の定量位相画像情報を計測で…

    2026.08.11
  • 金並みの導電性と赤外透明性を有する高耐久酸化物薄膜

    著者:物質・材料研究機構 原田尚之 1. まえがき 光デバイス・センサー,集積回路,パワーデバイスなどの分野では,電極や配線材料に対する要求が年々高度化している。単に電気をよく流すだけでなく,微細化した時のスケーリング特…

    2026.06.23
  • 表面偏析と自己組織化を組み合わせたペロブスカイト太陽電池の自発的積層制御技術

    著者:埼玉大学 石川 良 1. はじめに 2050年の炭素循環社会の実現に向け,再生可能エネルギーの導入拡大が必要である。現在,世界の太陽光発電の98%以上を結晶シリコン系太陽電池が占めているが,シリコン系は製造に多大な…

    2026.06.10

新着ニュース

人気記事

編集部おすすめ

  • オプトキャリア