いろいろなガスレーザー

炭酸ガスレーザーは特殊なレーザーです。すなわち,10μm付近の赤外波長域において極めて高い出力をだすことができるレーザーです。そのために,鉄板の切断とか溶接と言った大型の加工装置に使われています。パルス発振も連続発振も可能です。

炭酸ガス分子は,1個の炭素(C)原子と2個の酸素(0)原子が三角形のように結びついている構造をしています。この分子の中の,原子間の振動状態の変化がレーザーに直接関係しています。分子構造は,バネで結びついているボールを想像して下さい。


図3
図3

図3のように,バネが伸縮振動したり,バネの角度が変化します。それらのわずかの変化が,エネルギー差を作り出します。これがレーザーのエネルギー準位を作ります。伸縮運動に関係するエネルギー準位によるレーザーは10.5μm付近の波長の光を出します。結合の曲げ振動に関係するエネルギー準位によるレーザーは9.6μm付近の光を出します。

いずれの場合も,かなりたくさんのエネルギー準位を持っていますので,約440本と極めて多数の発振線が得られます。

炭酸ガスレーザーには,炭酸ガスを窒素とヘリウムを混合したガスを使います。混合ガスの中を放電電流が流れると,電子衝突によって窒素分子と炭酸ガス分子がエネルギーをもらいます。窒素分子の励起状態は炭酸ガス分子の伸縮振動エネルギー状態に近いので,窒素分子のエネルギーは簡単に炭酸ガス分子に移行します。

ヘリウムガスはレーザー下準位にあるC02原子をさらに低いエネルギー準位に落とす役目をし,さらに放電によって上昇したガスの温度を下げる役にも立ちます。炭酸ガスレーザーの効率は約50%にも達します。ガス圧が低い場合は連続発振が可能ですし,高圧ガスを使いますと高出力パルス光を得ることができます。

大きいものでは数十kWの連続発振も得られますので,鉄板の切断や溶接などに利用きれます。既製服の布地の切断に利用されています。布地は柔らかいので,何百枚も重ねた布地をある型に切断することは簡単ではありません。木や鉄の板のようにノコギリできることはできません。そこで登場するのが炭酸ガスレーザーです。

炭酸ガスレーザーは赤外領域での大出力を得意とし鋼板の切断など加工分野で幅広く利用されてきましたが,現在ではファイバーレーザーに取って代わられつつあります。

多くのガスレーザーは大気中に存在するガスを使うのが普通で,炭酸ガスとかヘリウムネオンレーザーなどはその代表です。例外的なのが次にお話しするエキシマレーザーです。


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