佐賀大学と佐賀県窯業技術センターは、陶磁器の釉薬に由来する近赤外領域(880 nm付近)の発光が釉薬の主原料である長石に含まれるネオジムに由来することを発見した(ニュースリリース)。
釉薬は「うわぐすり」ともよばれ、陶磁器の表面を覆う薄いガラス層のことを指す。釉薬は陶磁器の色・つや・防水性・耐久性の向上などの役割があるが、研究グループは以前の研究において、この釉薬層に近赤外領域の785 nm光を照射すると880nm付近に発光を示すことを示した。一般に、発光強度を波長に対してプロットしたものを発光スペクトルとよぶが、研究グループは釉薬の発光スペクトルが陶磁器の焼成温度によって大きく変化することを発見し、新しい陶磁器の非破壊分析技術としての可能性を明らかにした。しかし、この発光のメカニズムは不明なままであり、発光の原因となる原料や発光の起源となる元素が何かなどは明らかにされていなかった。
有田焼などで用いられる珪灰石釉の主成分はソーダ(ナトリウム)長石とカリ(カリウム)長石で、その他に珪灰石や珪石、カオリンなどが含まれている。そこで、これらの原料を焼成した試料について近赤外発光スペクトルを測定したところ、ソーダ長石とカリ長石の発光スペクトルを足し合わせたものが釉薬のスペクトルに類似していることを発見した。
次に微量元素を分析する手法である誘導結合プラズマ発光分光法を用いて釉薬原料を調べたところ、2つの長石から微量のプラセオジム(Pr)とネオジム(Nd)が検出された。そこで、これらの元素と発光強度の関係を調べるため、PrとNdを添加した釉薬を作り、その発光スペクトルを測定した。その結果、Ndを添加することで880nm付近の発光強度が増大することが観測され、釉薬の発光は長石に含まれる微量のネオジムであることが判明した。
次に古陶磁器片への応用の可能性を調べるため、17〜19世紀の有田焼と瀬戸焼の古陶磁器片について、近赤外発光スペクトルを測定しました。有田焼と瀬戸焼の陶片では発光スペクトルの形状や発光極大波長に違いが見られました。今後更なる系統的な研究が必要ですが、この結果は釉薬の近赤外発光スペクトルの分析が古陶磁器の産地同定などの新手法となる可能性があるという。

有田焼と瀬戸焼の古陶磁器片とその赤外発光スペクトル(右)
今回メカニズムを解明した近赤外発光は釉薬だけでなく宝石類や溶岩などでも観測され、今回の研究の知見はさまざまな分野への波及効果が期待される。陶磁器に関しては、1600年ごろの黎明期有田焼の陶磁器などへの応用を計画するとしている。