東北大ら,テラヘルツで量子物質の巨大分極を誘発

著者: 梅村 舞香

東北大学,東京科学大学,岡山大学は,電子強誘電体と呼ばれる量子物質の一種にテラヘルツ波を照射することで,バルク強誘電体としては過去最大の極めて大きな分極の変化を示すことを発見した(ニュースリリース)。

強誘電体はメモリや光変調器などのエレクトロニクスに欠かせない材料。昨今のデジタルトランスフォーメーション(DX)と呼ばれる情報の活用方法の変革は,電気素子のテラヘルツ以上の超高速動作を至近の課題としている。

ところが従来の強誘電体は,結晶内で重いイオンや分子を動かす必要があり,高速動作の妨げとなっていた。また,この機構にはエネルギー消費や結晶劣化を招くという問題もある。

今回,研究グループは,無機物質である遷移金属酸化物の電子強誘電体である,ルテチウム鉄酸化物 LuFe2O4に注目。テラヘルツ電磁波を照射したところ,強誘電分極が極めて敏感に変化し,バルク強誘電体として過去最大の変化量を示すことを発見した。また,この特性が,多数の電子の協力効果によって生じていることを明らかにした。

実験では,分極の大きさや方向の変化を調べるために,テラヘルツ波の照射下において,光第二高調波発生(SHG)を測定した。テラヘルツ波を照射していないとき,グラフの形状は結晶対称性を反映して四つ葉型だったが,テラヘルツ波照射後わずか1ピコ秒未満で全く異なる形に変化した。これは分極が傾いたことを意味している。

特定の角度で観測されるSHG発生強度の増加率は最大で170%と,バルク強誘電体として最大の値を示した。これまでの最大は,同程度の条件で約80%だった。LuFe2O4が極めて敏感な特性を持つことが解った。

このような分極応答の敏感性の理由を調べるために,角度分布を非線形感受率テンソル解析という手法によって調べ,分極の傾きがどのようなダイナミクスを示すのかを明らかにした。

0.2ピコ秒近傍では,電場に対する感度が低いのに対し,1ピコ秒付近では逆に,感度が高い大きいことが分かった。テンソル成分の大きさは通常,物質に固有の量であり時間変化しないが,LuFe2O4では,感度が1ピコ秒未満で約1桁増大していることが解った。

このことは,テンソル成分の変化に寄与する分極の総量が増えたことを意味する。テラヘルツ波の照射をきっかけに,結晶内に点在していた微視的な分極ドメインが「右へならえ」とチームプレーのように整列し,巨大に成長したと考えられるという。

研究グループは,こうした高効率,超高速な応答性は,新規な光エレクトロニクスデバイスの原理として応用が期待できるとしている。

キーワード:

関連記事

  • 工繊大ら,水の力で不溶有機半導体材料をフィルム化

    京都工芸繊維大学,大阪工業大学,産業技術総合研究所は水と有機溶媒を適切に混ぜることで、poly(NiETT)粉末が自然にほぐれて分散する新しい手法を発見し,従来は困難だった薄くて柔軟なフィルムの作製が可能になったと発表し…

    2025.10.03
  • 名大,安価で無毒なテラヘルツデバイスに知見

    名古屋大学の研究グループは,シリコン(Si),ゲルマニウム(Ge),スズ(Sn)というIV族元素のみで構成されるGeSn/GeSiSn二重障壁構造を超高品質に形成する新技術を開発し,テラヘルツ発振に必要な共鳴トンネルダイ…

    2025.08.22
  • 科学大ら,THzデバイスのチューニング機構を開発

    東京科学大学と広島大学は,マイクロアクチュエータを用いた機械チューニング技術によりテラヘルツ(THz)帯通信デバイスの性能改善に成功した(ニュースリリース)。 300GHz帯や150GHz帯といった高周波領域(テラヘルツ…

    2025.08.20
  • 農工大ら,室温動作する広帯域テラヘルツセンサ開発

    東京農工大学,中国科学院,兵庫県立大学は,シリコン素材を用いて室温動作可能であり高速・高感度で広帯域検出可能なテラヘルツMEMSボロメータの開発に成功した(ニュースリリース)。 テラヘルツ(THz)計測技術の社会実装を進…

    2025.07.18
  • OKIら,異種材料接合でテラヘルツデバイス量産確立

    OKIとNTTイノベーティブデバイスは,結晶薄膜を剥離し,異なる材料の基板やウエハーに異種材料接合するOKI独自の技術であるCFB(Crystal Film Bonding)技術を用いて,InP系UTC-PD(単一走行キ…

    2025.07.18
  • 産総研,AI技術で導波路の接続状態の良否を自動判定

    産業技術総合研究所(産総研)は,ミリ波からテラヘルツ波にわたる電磁波の測定における導波路の接続状態を,機械学習を用いて自動判定する技術を開発した(ニュースリリース)。 ミリ波からテラヘルツ波にわたる高周波帯の電磁波を扱う…

    2025.06.20
  • NTTら,高出力な300GHz帯信号生成システムを実現

    日本電信電話(NTT),NTTイノベーティブデバイス,米Keysight Technologies, Inc.は,J帯(220GHz~325GHz)をフルカバーする広帯域な増幅器モジュールと,信号の歪を高精度に補償可能な…

    2025.06.18
  • パナら,仮想化端末でテラヘルツ波を超広帯域伝送

    パナソニック ホールディングス,国際電気,名古屋工業大学,KDDI総合研究所は,仮想化端末ハードウェア実証装置を開発し,テラヘルツ波を用いたマルチビーム伝送と偏波MIMOにより4.8GHz帯域幅において38.4Gb/sの…

    2025.05.21

新着ニュース

人気記事

新着記事

  • オプトキャリア