神戸大学,長崎大学,新潟大学,名古屋大学,独ザーランド大学は,人体に無害な長波長光を高いエネルギーをもつ短波長光に変換するアップコンバージョン過程の中間体が,分子内部の励起子ホッピング運動を1兆分の1秒の単位で繰り返し起こす現象を明らかにした(ニュースリリース)。
持続可能社会の実現に向けて,これまで利用されてこなかったエネルギー資源を有効活用していく取り組みが重要となっている。そこで,地球に届く太陽光のうち,低エネルギーの赤外線(50%程度)も有効に使える長波長光を短波長光に変換できる光アップコンバージョンを活用し,あらゆる波長の光を太陽光発電に利用するという取り組みがある。
光アップコンバージョンの素過程である三重項-三重項消滅(TTA:Triplet-triplet annihilation)と呼ばれる化学反応を利用することで,太陽光などの弱い光であっても波長変換を起こすことが可能となり,太陽電池や有機発光素子をはじめとする光エネルギー変換デバイスの高性能化や医療および環境センシングに大きく貢献することが期待される。
しかし,TTAによる光アップコンバージョン(TTA-UC)のメカニズムについては十分に理解されておらず,材料開発のボトルネックとなっていた。TTAは,二個の三重項励起子が出会って一個の一重項励起子に変換される過程で二つの低エネルギー状態が高いエネルギー状態に融合されていく化学反応。
短波長光源となる一重項励起子の高効率生成条件を明らかにするには,その仕組みを理解することが必要だが,分子振動による動的効果と立体効果のシナジーに着目する研究は行なわれておらず,またTTA反応中にある中間体における励起子超高速運動と反応速度との相関を直接調べた例はなかった。
研究グループは今回,アントラセン三つをホウ素で架橋させた分子内において生成する三重項励起子によるアップコンバージョン発光と電子スピンのホッピング運動の両者を観測した。この中間体が分子内部において回転しながらホッピングする時間が溶媒によって大きく変化し,それにより光の波長変換効率を制御できることが明らかとなり分子周囲のミクロな領域で流動性をセンシングするのに適していることが分かった。
研究グループは,この成果により分子振動を巧みに利用する光エネルギー変換デバイス開発が進展し,人体に害のない近赤外光を利用する光線力学的ながん治療や,その細胞内部のミクロな流体環境センシングへの応用など幅広い分野への展開が期待されるとしている。
