京都工芸繊維大学の研究グループは,カーボン量子ドット(CQD)の表面を化学的に修飾することで,CQDの光褪色耐性を飛躍的に向上させることに成功した(ニュースリリース)。
炭素を主成分とするCQDは,生体親和性の高さから細胞の蛍光イメージングや温度計測への応用が期待されている。しかし,CQDは光褪色しやすく,また温度計測において細胞内環境の影響を受けやすいという課題があった。
研究グループはまず,CQDの蛍光特性を解析した。合成した窒素・硫黄共ドープ型CQD(N,S-CQD)には,コアと表面由来の2つの発光成分が存在し,特に表面由来の発光が環境の影響を受けやすいことが判明した。
そこで,高分岐鎖ポリグリセロール(HPG)による表面化学修飾(N,S-CQD-HPG)を行ない,表面由来の発光を低減させた。その結果,紫外可視吸収スペクトルではN,S-CQDに見られた320nm付近の吸収ピークがN,S-CQD-HPGで低減し,表面由来の発光が大幅に抑制された。
さらに,N,S-CQD-HPGの蛍光強度が温度に線形応答することを確認し,繰り返し測定でも性能が変化しないことを明らかにした。光安定性評価では,1800秒間の光照射後の蛍光強度低減が,窒素ドープ型CQD(N-CQD)では54%,N,S-CQDでは18%だったのに対し,N,S-CQD-HPGでは3%と,光褪色の影響が大幅に低減され,光褪色の主な原因が表面由来発光の不安定性と示された。
また,N,S-CQD-HPGの蛍光強度が環境因子(塩濃度,pH,粘度,生体分子濃度)による影響をどの程度受けるかを評価した。N,S-CQDは塩濃度100mMで3.5%,1000mMで7.7%蛍光が低下したが,N,S-CQD-HPGは変化がほとんどなかった。
pH安定性はN,S-CQDが5~9の範囲なのに対し,N,S-CQD-HPGでは3~10の範囲で安定していた。粘度の影響について,N,S-CQDは10wt%グリセロールで12%の蛍光増強を示したが,N,S-CQD-HPGは20wt%まで影響を受けなかった。
BSA濃度の影響も,N,S-CQDでは100μg/mlで7.3%,1000μg/mlで61%の蛍光増強が見られたのに対し,N,S-CQD-HPGでは1000μg/mlでもほぼ変化がなく,N,S-CQD-HPGは環境因子の影響を10~100倍程度低減できると示された。
今回,N,S-CQD-HPGの高い光安定性と温度選択性が確認され,安定なナノ温度計測が可能となった。研究グループは,工学・生物学分野における正確な温度測定が期待されるとしている。