産業技術総合研究所(産総研)は,不確かさ4.3nmで基準球面レンズの球面度を高精度に校正可能な技術を開発した(ニュースリリース)。
レーザー干渉計によるレンズの球面度校正装置において,レンズ二球面比較三位置法では,同Fナンバーの基準球面レンズを二つ用意する必要があった。
今回,実用的な基準球面レンズの校正法として,ランダムボール法を導入。さらに,ミスアライメントによる測定誤差を解析した不確かさの評価法を確立することで,従来と同等の不確かさで簡便に校正できるシステムを実現した。
ランダムボール法は,球の表面形状を測定し回転させることを何度も繰り返し,平均化することで,真球を使った場合と同等の結果を得る。今回開発した校正システムでは,基準球面レンズの焦点位置に中心がくるよう球を設置し,球表面における任意の部分的な面(部分球面)に対する基準球面レンズの形状の偏差を測定する。
そして,球を回転させてあらゆる部分球面形状と基準球面レンズ形状との偏差を取得し,それらの平均を求めることで,基準球面レンズの絶対形状の校正が可能となる。球は任意のFナンバーの基準球面レンズに対応できるため,高価な基準球面レンズを二つ用意する必要がない。
基準球面レンズの校正のように、光の波長を基準とした長さや幾何学形状の測定では,光学素子の固定位置の精密なアライメントが必要。ランダムボール法では球を回転させる度にアライメントをする必要があり,基準球面レンズと測定器物の共焦点位置から測定器物が横方向および縦方向にずれることがある。
そこで,ミスアライメントと測定誤差の関係を理論的に解析かつ実験的に検証し,ミスアライメントによる不確かさの評価方法を確立し,レーザー干渉計における干渉縞画像取得光学系および画像処理の座標系を考慮した理論的な解析を行なった。
その結果,ミスアライメントの影響は先行研究で考えられていたものより小さく,精密な調整が必要ないことを見いだした。一方,基準球面レンズの不完全性によりミスアライメントの影響が顕在化することも判明し,レンズごとに実験的にミスアライメントの影響を評価する必要性が示された。
これにより,例えばFナンバーが0.75の基準球面レンズを校正する際,先行研究では横方向13nm,縦方向40nmの精度で焦点位置の調整が必要だと考えられていたところ,横方向106nm,縦方向318nmの精度での調整でも,従来と同等の不確かさ4.3nmで基準球面レンズの球面度の校正が可能となった。
研究グループは,光学部品関連メーカーの高精度な光学素子の開発,製品の品質管理の高度化に貢献する成果だとしている。