東北大学と日本電気硝子は,近赤外光を通す超高屈折率材料を発見した(ニュースリリース)。
近年の人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)技術の進展に伴い,現実世界をデジタル化する目として近赤外光の利用価値が高まっている。たとえば,自動運転車では近赤外光の反射により周囲の物体との距離を精度良くリアルタイムに測定できる。
また,オフィス空間や工場,インフラ等の現実世界をバーチャル空間上に再現するデジタルツインにおいても,近赤外光による高精度かつリアルタイムな空間把握が重要な役割を果たす。
一方,この近赤外光センシングは,環境光によるノイズに弱いという欠点がある。そのため近赤外センサーには不要な光を遮断する光学フィルターが不可欠だが,現在の光学フィルターは視野角が狭いため,広い視野を得るにはセンサーを高速回転させる必要がある。これは,システムの高コスト化を招き,技術の普及を妨げる一因となっている。
光学フィルターは,高屈折率と低屈折率の透明材料をナノスケールで交互に積層して作製される。現在,近赤外域で高屈折率の透明材料はシリコン(Si)やガリウムヒ素(GaAs)に限られているが,広い視野角を得るために,より高い屈折率かつ透明な光学材料の開発が求められている。
研究グループは,近赤外域で透明かつ従来よりも高屈折率の材料を網羅的な第一原理計算により探索したところ,ハーフホイスラー合金と呼ばれる材料群が,シリコンの約3.4に対して最大で約1.5倍の5を超える屈折率を示す透明材料になることを発見した。
さらに,これらの材料の透明性を示すバンドギャップが金属原子の有効核電荷とサイズによって決定されることも見出した。実際に,第一原理計算で高屈折率かつ透明材料と示唆されたハーフホイスラー型のTiCoSb(Ti:チタン,Co:コバルト,Sb:アンチモン)薄膜を合成し,計算値とよく一致するn=4を超える高屈折率が得られることを確認した。
研究グループは,この成果により近赤外光センシングの応用範囲が広がり,現実空間を正確に把握してバーチャル空間上に再現するデジタルツインの普及加速が期待されるとしている。