東大ら,結晶成長が速くなる仕組みを解明

東京大学と産業技術総合研究所は,結晶の「赤ちゃん」が,ゆっくりと振動する「結晶のゆりかご」の中で成長する様子を原子分解能透過電子顕微鏡で1秒間に300フレームの高速映像として記録することに成功した(ニュースリリース)。

結晶成長の最初期過程である二次元核生成は結晶の成長速度や成長方向を決定づける重要な過程であり,重点的に研究されてきたが,このプロセスは確率論的に起きると考えられるため,その詳細が研究できるのかさえも知られていなかった。

研究グループは,電子顕微鏡技術によって分子1つ1つの動きを動画撮影して解析する研究を行なっており,昨年,食塩結晶形成の瞬間を映像で報告している。

今回,水分散性円錐状カーボンナノチューブ(CNT)を容器としてその内部に塩化ナトリウム(NaCl)を導入することで,容器の中でNaCl結晶が成長する様子を撮影し,NaCl結晶の成長に先立って結晶表面に1nm程度の非周期的な構造の分子集合体が形成され,「浮き島」のように結晶表面を動き回る様子を始めて捉えた。

さらに,容器の振動にともなって内壁と結晶表面がくっついたり離れたりすることで,結晶の成長が促進されることを発見し,外部刺激がないと結晶がほとんど成長しないことを原子レベルの連続撮影で初めて証明した。振動などの機械的刺激が結晶化を促進することは経験的に知られていたが,その原子レベルのメカニズムは解明されていなかった。

今回の原子分解能での連続高速撮像(~300フレーム/秒)により,容器の内壁と結晶との隙間に毛細管現象で浮き島が安定化され,ついで容器の振動によって毛細管現象が解消されると浮き島が不安定化して,結晶成長が起きるサイクルを発見した。

この隙間は「結晶成長のゆりかご」とも言えるもので,容器の内壁の隙間で浮き島が形成され,ゆりかごが振動するごとに壁面と浮き島の相互作用が変化し,浮き島がそのまま結晶面に定着したり,どこか近くの結晶面に移ったりして定着することで結晶成長が進む。

研究グループは,同様の過程は身近なスケールでも生じているとし,従来検討されてきた濃度や温度といった結晶化条件に加え,これまでは見逃されていたごく微小な機械的刺激による結晶化への影響を応用できれば,結晶成長の精密制御の実現が期待されるとする。

今回の手法は,これまでブラックボックスだったマクロな分子集合体の応答を生み出す1分子1分子の挙動解明につながるだけでなく,望みのマクロ応答を示す新材料を分子レベルでの観察に基づいて設計・開発する革新的分子技術への応用が期待されるとしている。

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