東工大ら,結晶の光誘起構造変化ダイナミクスを解明

東京工業大学,神戸大学,筑波大学,独ヨーロピアンXFEL,加トロント大学は,鉄錯体とニッケル錯体から成る複合機能性金属錯体結晶を光照射した際に,1兆分の1秒以下で起こる光吸収した鉄錯体分子の速い構造変化が,分子間相互作用の一種としてその重要性が議論となっているハロゲン結合を媒介してニッケル錯体分子の配列変化につながっていく機構を明らかにした(ニュースリリース)。

分子の集合体である分子性結晶や生体分子などの示す特性には,共有結合や配位結合のような強い分子内結合に加えてハロゲン結合のような弱い分子間相互作用の理解が必要となる。

この研究の対象物質である複合機能性金属錯体結晶[Fe(Iqsal)2][Ni(dmit)2]·CH3CN·H2O [Iqsal=5-iodo-N-(8’-quinolyl)- salicylaldiminate, dmit=1,3-dithiole-2-thione-4,5-dithiolate]は,スピンクロスオーバー(SCO)現象を示す鉄(III)錯体カチオン[Fe(Iqsal)2]+と一つの不対電子を持つ常磁性ニッケル錯体アニオン[Ni(dmit)2]との間にハロゲン結合が認められる。

 [Fe(Iqsal)2] +カチオンのSCO現象と[Ni(dmit)2]アニオンの二量体の常磁性–スピン一重項変化は,同時に約150Kで相転移として起こることが明らかにされており,両者をつなぐ機構としてのハロゲン結合の重要性が指摘されていた。

また,SCO現象は光照射でも起こり,光誘起励起スピン状態捕捉効果と呼ばれている。この研究の対象物質についても,80K以下で光照射すると,[Fe(Iqsal) 2] +カチオンの準安定高スピン状態の出現を示唆する磁化率の増大が報告されている。

一方,この光による準安定状態において,温度変化による相転移と同様に [Ni(dmit)2]アニオンの二量体の磁性変化が起きているか,ハロゲン結合が存在し続けているのかという点については明らかではなかった。

今回研究グループは,極短時間光パルスと極短時間電子線パルスを用いた時間分解測定法に加えて,量子化学計算も併用し,光励起でサブピコ秒時間分解能での結晶の構造が変化する過程で,[Ni(dmit)2]アニオンの二量化を弱めるような,ハロゲン結合の役割を明らかにした。

研究グループは,今後,さまざまな分子の集合体が示す機能に対して分子間相互作用の働きを理解するきっかけになるとしている。

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