核融合科学研究所(NIFS)と米ウィスコンシン大学は,高性能なレーザー装置を開発し,世界最高となる,従来より600倍以上速い1秒間に2万回の速さで,プラズマの電子温度・密度を計測する手法を開発した(ニュースリリース)。
NIFSの大型ヘリカル装置(LHD)では,核融合発電に必要な,高温のプラズマを磁場で閉じ込める研究を行なっている。プラズマ中の電子の温度を計測するためには「トムソン散乱計測」が用いられる。
強力なレーザー光をプラズマに入射すると,その光が電子に衝突するとき発生する散乱光はドップラー効果によって,入射したレーザー光とは違う色に変わる。この色の変化は電子の速さに対応しており,電子温度を知ることができる。また,この時,散乱光の明るさから電子密度も分かる。
プラズマの状態を正確に知るため,トムソン散乱計測装置には,電子温度・密度の空間分解能と,時間分解能が求められる。LHDでは,プラズマ中の144地点の場所で電子温度・密度を同時に測って,世界トップレベルの空間分解能を達成している。
一方,時間変化については,現在,LHDの時間分解能は30Hzしかない。研究の理解や新発見のためには,これを高速化して時間分解能を高めることが必要だった。そこで研究グループは,最大20kHzで計測可能なトムソン散乱計測装置を開発し,従来の30Hzの計測を行ないながら,20kHzの計測が可能となった。
このレーザー装置では,レーザー媒質(固体媒質)に光エネルギー(励起光)を与えることで強力なレーザー光を発生させるが,レーザー光の発生効率が100%ではないために,レーザー光に変換されないエネルギーが熱が問題となる。発熱によって媒質内に温度差が生じると,場所によって光の進み方が異なる熱光学効果が現れ,レーザー光の出力低下や固体媒質の破損などの原因となる。
そこで研究グループは,媒質内に温度差が発生する前の5ミリ秒という時間に,媒質にエネルギーを与えてレーザーパルスを媒質から取り出す動作を複数回行なうことで,熱光学効果の問題の回避に成功した。
このレーザーと,新開発の高速データ収集系などによって,これまでの600倍以上である20kHzの世界最高速で計測可能なトムソン散乱計測装置を実現した。これにより,プラズマへの燃料供給や乱流が引き起こす突発現象など,これまで観測することが難しかった物理現象の精密理解が進むと期待される。
研究グループは今後,この装置の開発を進め,国際協力で進められている核融合研究でイニシアチブを取り,加えて,このレーザー技術を,レーザー加工を始めとする産業応用に発展させていくとしている。