筑波大学と関⻄学院大学は,面キラリティをもつ共役系有機分子を基板表面で自己組織化させることにより,同一形状で均一サイズ,かつ一軸配向したお椀型多面体マイクロ単結晶(骸晶)の作製に成功した(ニュースリリース)。
結晶工学は半導体産業や機能材料開発における基盤であり,幅広い分野にわたって精密な結晶成⻑の制御に関する研究が行なわれている。一般に,結晶材料は緩やかな成⻑プロセスを経て制御され,多くの場合,凸多面体形状の外形が形成する。
一方で,急速な成⻑プロセスを経た場合,結晶は時に凹んだ面で囲まれた凹多面体形状(お椀型)の「骸晶(がいしょう)」を形成する。骸晶は,結晶の対称性を反映しつつ稜や頂点が発達した凹多面体の外形で特徴付けられ,ビスマスのように壁面が発達したものはホッパー結晶,雪のように頂点が発達したものはデンドライト結晶に分類される。
骸晶は,従来の緩やかな成⻑プロセスでは表出し得ない結晶面や複雑な形状をもつため,骸晶形成の精密な制御ができれば,結晶材料に潜在する新たな機能の発掘が期待できる。しかしながら,骸晶はその急速な成⻑プロセスにより,得られる形状やサイズ,配向の均一な制御が困難であり,結晶工学における大きな課題となっている。
研究グループは,今回,面キラリティをもつ4置換[2.2]パラシクロファンを骨格とするπ共役分子((S)-CP4)の基板表面での結晶成⻑について詳細に検討した。その結果,(S)-CP4の過飽和溶液を石英基板上に滴下し,急速に溶媒を揮発させることで,形状,サイズ,配向が均一にそろったマイクロ結晶が形成することを見いだした。
このお椀型マイクロ結晶は,基板表面にわずか10秒程度で一⻫に形成する。また,溶液濃度の調整やキラリティの選択により,より複雑で精緻なお椀型多面体形状の結晶を形成することができ,得られた凹多面体マイクロ結晶は,実際に溶液を保持する微小な器として機能する。さらには,多環式芳香族炭化水素を模した結晶の敷き詰め構造の形成も可能だという。
この研究は,分子の自己組織化により凹多面体マイクロ骸晶の形成を基板表面で均一かつ精密に制御した点で先駆的であり,この6回対称の幾何形状(トポロジー)を利用した光機能発現の可能性があるという。
研究グループは今後,核生成を制御した骸晶の二次元配列制御,結晶空間群に着目した骸晶の三次元構造制御,キラリティに由来する光学特性の発現など,フォトニクス,エレクトロニクス,触媒などへの波及が期待されるとしている。