月刊OPTRONICS 特集序文公開

メタサーフェスによる非コヒーレント指向性光源の開発

著者:大阪公立大学 村井俊介

1.はじめに

全ての非コヒーレント光源は全方向に光を放つため,照明を含め多くの発光装置では,不要な方向へ放たれる光が存在する。現状ではこれら不要光を反射鏡やレンズなど嵩高い部品を用いリサイクル/再分配している(図1)。もし特定方向のみに光を放つ光源が開発できればこれらが不要となり,再分配に伴う光ロスもなくなる。特定方向のみに理想的には100%光を放つ光源,これが本稿で想定する非コヒーレント指向性光源である。本稿ではメタ表面の一種であるナノアンテナを用いた非コヒーレント指向性光源の開発と白色光源への応用に関する著者らの取り組みについて述べる。

1.1 白色LED / LD とナノアンテナ蛍光体

白色LEDは青色LEDと青色を吸収して黄色に光る蛍光体の組み合わせからなり,吸収されなかった青色と黄色の混色により白色を得る装置である。白色LEDはその誕生以降,輝度向上と効率向上を続けてきたが,蛍光体を含む個々の構成要素とそれらのパッケージングはすでに高度に最適化され,この10年成長曲線に陰りが見えている。特にハイパワー・高輝度応用においては,蛍光体の過熱に伴う発光効率の低下,冷却機構の大型化問題が顕在化し,従来技術の延長では成長が難しくなってきた。現在,より高輝度の照明応用に向け青色レーザダイオード(LD)を使った白色光源の開発が進んでいるが,青色LDは青色LEDに比べ直進性が強いため,混色の問題(青色レーザが指向性をもって直進するのに対し,黄色蛍光は全方向に放たれるので均一な白色が得られない)が起こる。また青色LDは青色LEDよりハイパワーであり,熱の問題がよりシビアとなる。現状では青色レーザ光を散乱させて指向性を失わせて均一に混合した後,レンズやミラーなどの嵩高い光学系によって指向性を付与し使用しているが,これは青色レーザの直進性を活かした解決策ではない。他方ナノ光学分野で近年のトピックとなっているメタ表面技術の一つであるナノアンテナは,高さ数百ナノメートルの平面構造で光を制御する新技術で,これを用いたレンズ(メタレンズ)やフィルタ(メタフィルタ)が開発されてきた。本稿著者はこの技術を白色光源に応用すべく研究を進め,黄色蛍光を垂直方向へ優先的に放つナノアンテナと青色LDを透過配置で組み合わせた“ナノアンテナ蛍光体”を作製してきた。ナノアンテナ蛍光体の特長は,その圧倒的な小ささで,嵩高い光学系なしに高指向性な光源を得ることが出来る唯一の技術であると本稿著者は考えている。

1.2 ナノアンテナ技術

本技術の肝がナノアンテナである。これは金属あるいは誘電体からなる光の波長程度の周期を持ったナノ構造で,周期構造に起因する散乱光の強めあい/弱めあいの干渉により特定方向からの入射光をアンテナ面内に取り込んだり,面内の伝搬光を特定方向に放つことが出来る。ナノアンテナはナノ光学で生まれた概念で,極薄い(<50nm)あるいは単分子の発光体と組み合わせ,その発光特性を大幅に変調する研究が進んできた。ナノアンテナ内の変調効果が高い,“スイートスポット”に位置する分子から数千倍の発光増強が報告されているものの,あくまでナノ光学内のトピックであり,顕微鏡下で増強された発光が観察できるものの,それを照明等の光源に使う発想はなかった。発光増強の研究と並行して,2000年頃からナノアンテナを用いて光をデバイスに効率良く取り込むことで性能を上げる“光マネジメント”の概念が打ち出され,ナノアンテナ太陽電池などが報告された。本稿著者は光マネジメントの概念を蛍光体開発に持ち込み,実用的な蛍光体とナノアンテナを組み合わせた,ナノアンテナ蛍光体を試作・報告してきた。以下に研究の進展を示す。

1.2.1 第1 世代ナノアンテナ蛍光体

2018年に報告した第1世代ナノアンテナ蛍光体は,金属アルミニウムナノシリンダー周期アレイ構造を蛍光体基板上に作製することで蛍光に指向性を与え,青色LDとの均一な混色を達成した。蛍光体基板からの蛍光は全方向に放たれるが,アルミナノシリンダーアレイが蛍光の方向を揃えるナノアンテナとして働き,青色と蛍光の放射方向を揃えることで指向性を持った白色光を作り出すことができた。また前方方向に蛍光を集めることで,前方方向への蛍光強度はアレイのない基板に比べ最大7倍にまで高められた。また従来使用されているプラスチックのバインダーで蛍光体粒子を固めた蛍光体層に替えて蛍光体基板を使ったので,バインダーの劣化を考える必要が無くなった。蛍光体基板は蛍光体粉末をバインダーで固めた蛍光体層よりも熱伝導度が高いため,温度が上がりにくく,温度消光の問題も緩和された。

1.2.2 第2 世代ナノアンテナ蛍光体

2018年以降の研究で,第1世代ナノアンテナ蛍光体の2点の課題が浮かび上がった。1点目はアルミニウムナノ粒子の光吸収による青→黄色への変換効率の低下であり,2点目が蛍光取出し効率である。変換効率(η)に関して,元の蛍光体では100%近い変換効率が,ナノアンテナと組み合わせることで70%に低下することがわかった。また2点目に関して,積分球を使った光量評価で,全放出蛍光中で前方に取り出されている蛍光の割合(pfor)が30%程度で,残りの70%は後方や側方へ放たれていることがわかった。2020年以降この2つの課題解決に取り組み,変換効率の低下は可視域で光吸収のない誘電体(具体的にはTiO2)を使うことで解決した(本稿で第二世代と呼ぶ)(図3)。

他方,蛍光取り出し効率は解析モデルにおいて100%前方取り出しの条件を見いだしたものの,実験でこれを実現するに至らず,裏面に青色光を透過し,黄色蛍光を反射するDistributed Bragg Reflector(DBR)を成膜することで後方放射を抑制したナノアンテナ蛍光体においてもpforは最大で50%程度である。ただしこの値はパッケージングを施さないナノアンテナ蛍光体における値であり,周辺部材の最適化でさらに上昇すると考えられる。図4にη,pforのこれまでの進展と今後の研究ロードマップを示した。

1.3 低エタンデュ光源としての側面

指向性光源はレンズ光学(幾何光学)の言語では低エタンデュ光源と言い換えることが出来る。Etendue(エタンデュ, E)とは光源の断面積に放射立体角を掛けた物理量で,レンズなどの光学系を通る前後で保存される(図5)。低エタンデュの光源は放射される光を小さな口径のレンズで伝えることが出来るため,光学系の小型化に寄与する。

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