─久間会長が特に推し進めてこられた取り組みを振り返ってお聞かせください。
そもそも学会の役割というのは学術の振興,関係分野における科学技術成果の社会実装,人材育成の3つが挙げられると思います。私が会長に就任して実現しようとしたことは,レーザー技術の応用先として新たな分野を開拓することと,私が内閣府総合科学技術・イノベーション会議議員時代に創出したSociety 5.0のコンセプトを具体化するためのサイバーフィジカルシステム(CPS)を光・レーザー分野に導入することです。
このCPSというのは,サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合する,そして新たな価値を創造することによって,社会課題の解決と産業の発展を両立するという概念です。実は,これまでの科学技術政策では社会課題の解決を主たる目的として,産業の発展は強く主張していませんでした。両立が重要なのです。
例えば,新型コロナウイルスが蔓延したときもそうです。新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるためには社会活動を停止すれば良いのです。しかし,人々の活動がなければ,経済は回りません。そのため経済を回しながら,新型コロナウイルスを拡大させないためにはどうすればいいかという,2つの命題を両立させる対応が必要でした。まさに社会課題の解決と経済の発展を両立することが必要なのです。
新分野開拓の取り組みとしては,技術専門委員会に「スマート農食産業」を,CPSの導入に対しては「スマートパワーレーザー」を発足させました。今後は益々,それぞれの取り組みを強化する予定です。
社会課題の解決に向けた提言活動としては,2050年のカーボンニュートラル実現を目指すという政府の宣言を受け,レーザー技術が如何にカーボンニュートラル実現に貢献できるかを,レーザー学会の研究者の皆様がそれぞれの応用分野で分析してくださり,提言書『2050年カーボンニュートラルへのレーザー技術の貢献』としてまとめ,2022年1月に公表しました。
本提言書はカーボンニュートラルだけでなくエネルギー安全保障の実現に向けて,特にレーザー核融合の早期開発の必要性を,政府や行政に対して提言しました。このような活動が徐々に実を結び,本格的な実用化に向けての研究開発が進むのではないかと期待しています。
もう一つ,大きな出来事といえば,新型コロナウイルス感染症拡大によって学会の運営に大きな影響があったことです。会議のオンライン化やハイブリッド化で乗り切ることができましたが,対面でのコミュニケーションの重要性を改めて認識しました。この3年間で,オンラインと対面の各々のメリットとデメリットを体験して,オンラインやハイブリッドの活用による効率化と,対面によるコミュニティやネットワーキング形成を,ケースバイケースで使い分けるノウハウを獲得したことは大きな収穫と言えるでしょう。
昨年1月に開催した第43回学術講演会年次大会(2023年1月18日−20日)は久しぶりの対面開催で実施され,講演数が過去最高を更新しました。今年1月の年次大会も講演数が過去最高となる見込みです。