博士課程修了後の助手時代に出会ったのが,超短パルスファイバーレーザーです。このレーザーを用いることで,非線形光学効果を効率的に得られるようになりました。それで量子状態を制御したスクイーズド光という,量子工学分野の一つなんですけども,その安定生成と検出ができるようになりました。難しい研究テーマでしたけど,非常にやりがいもあって熱心に取り組むことができました。今の学生にもそういった研究の面白さをぜひ体験していただきたいと思っています。
研究はその後,光源寄りの研究にシフトさせていきました。それによって研究の幅も広がっていきました。量子工学にしても,その後に取り組み始めるバイオイメージングにしても,やはり優れた光源があって初めて良い成果が出るということで,光源技術というのが,レーザー応用研究のベースにあると言えると思います。
ファイバーレーザーの研究者というと,当時国内では東北大学の中沢正隆先生や電気通信大学の植田憲一先生,それに私がいたくらいで非常に少なかったと思います。その後にフォトニック結晶ファイバーが出てきたり,ファイバーレーザーも手のひらサイズのものが出てきたりしまして,この分野が急速に盛り上がっていきました。
私もそのタイミングで,1.5μmから2μmと広帯域に波長をシフトさせるような波長可変超短パルス光源や,1から2μmまで超広帯域で波長が広がるようなスーパーコンティニューム光の生成などに世界に先駆けて成功することができ,超短パルスファイバーレーザーの分野で非常に大きな成果を上げることができました。
これらの成果を高く評価していただきまして,いくつかの賞を受賞することもできましたし,企業との共同研究や大学発ベンチャーでこれらの製品化にも取り組みました。我々が開発した光源を世の中で活用していただいていること,それを引用した論文などを見ると大変うれしく思います。
ファイバーの非線形効果ではそれまでに多くの新しい現象が出てきたりするんですけども,そのいくつかの新しい非線形現象を発見するという幸運にも恵まれました。
セレンディピティという言葉がありますけども,新しいものを見つけられる能力は,割とある方じゃないかなと思っています。例えば,何かを見つけるというのは偶然に思えるんですけども,その背景にある観察力や洞察力といった基礎的な力とか,その価値を見出せる力,いわゆる見つけるための準備ができていたのではないかなと思っています。
他大学との研究交流に関しては, MIT(マサチューセッツ工科大学)に1年間,大阪大学に3年間の短期留学をしています。MITではハウス,イッペン,フジモト,カートナー先生という4人の教授がいる超高速エレクトロニクスだと草分けのすごく大きな研究室がありまして,その研究室でお世話になりました。
この研究室は超短パルスレーザーや光コヒーレンストモグラフィーのパイオニアでもあり,意識も非常に高くて大変勉強になりましたし,多くの卒業生や学生が光の分野で活躍しておりまして,そのような方々と知り合うことができたというのが,非常に大きな財産になったと思っています。
大阪大学では,日本光学会の会長も務められたことがある伊東一良先生の研究室でお世話になりました。大阪大学はフォトニクスに関する研究室が多く,河田聡先生もいらっしゃいましたけど,異分野融合や研究交流が非常に盛んで,大変多くの刺激をいただきました。その期間に関西の大学や研究機関の多くの先生方や研究者の方々と仲良くしていただきました。西の方面にもネットワークが広がりました。それまでは東の方面ばかりでしたけど(笑)。東西にネットワークを広げることができたのは非常に大きな財産になったと思っています。