自動運転やEVなど技術革新が進む自動車産業において,イメージセンサやパワー半導体の需要が増している。
今回,今年3月にオンセミ日本法人代表取締役社長に就任した林孝浩氏に話を伺った。同社は1999年にモトローラからスピンオフし,現在は車載イメージセンサでトップ,パワー半導体では2位のシェアを誇る,勢いのある米国の半導体企業だ。
同社は日本においてどのような戦略を持ち,市場をどう評価しているのか,ご覧いただきたい。
─御社についてご紹介してください
弊社では,世界的な課題である温室効果ガスの削減やサスティナブルな世界を構築するために,我々の技術である「インテリジェントパワー」と「センシング」を用いて,お客様の課題を解決していくことをミッションとしています。本社は米アリゾナ州フェニックスにあり,最新の業績を紹介しますと,昨年1月~12月の売上高は過去最高となる67億ドルでした。その前年の売上高が53億ドルだったので約28%増となっています。
本年度の業績ですが,2022年度第一四半期の売上高は昨年比131%となる約19億ドルと,第一四半期としては過去最高となっています。その中でもオートモーティブとインダストリアルは42%と大きく伸びていて,この二つを合わせた売上は全体の65%と大きな部分を占めています。我々は今後もこの2つの分野に大きく力を入れて伸ばしていこうと考えています。地域別の売上から見るとアジアの59%に対して日本は7%と,他の地域からは少し小さく見えますが,この数字は日本国内向け出荷ベースという意味で,日本で設計して海外工場で購入したものは含まれません。そういった意味では日本の数字はもっと大きくなります。
全世界で約3万3,000人いる従業員のうち日本には約1,600人がいます。そのうち70%が製造部門,残りの30 %がセールスおよび管理部門となっています。女性の採用も積極的に行なっていて,全従業員の45%,取締役の約2割が女性です。我々よりもこの割合が高い会社もあるとは思いますが,テクノロジーの企業としては非常に高い数字だと思っています。
また,米国のみの統計とはなりますが,マイノリティの従業員の割合は24.1%です。さらに6つの従業員リソ ースグループというものを通じて,女性従業員が活躍するためのスキルを身につけられるような環境を整備したり,黒人やLGBTQ,退役軍人の方々の採用を積極的に推進したりしています。我々はビジネスだけではなく,様々な面から社会に貢献していく必要があると考えているからです。
─経営戦略について教えてください
インテリジェンスなパワーソリューション,インテリジェンスなセンシングソリューションによって持続可能なエコシステムを強化していくとともに,この2つのテクノロジーでお客様の課題を克服していきたいと考えています。市場としては,当社の大きな売り上げを占め,大きく伸びているインダストリアルとオートモーティブに注力していきますが,中でもインダストリアルではMedium Voltage(MV), High Voltage(HV)を中心としたパワ ーソリューションや,イメージセンサを使ったマシンビジョンに力を入れていきます。
オートモーティブでは,お陰様でイメージセンサがトップシェアになっているので,引き続き注力していきます。今後はイメージセンサだけでなく, EV/HEV用のパワー半導体やIGBT (絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)などにも力を入れていくことになります。特にパワー半導体はSiCパワー半導体に力を入れています。昨年には米国のGT Advanced Technologies というSiCの製造会社を買収しており,現在はSiCブール(インゴット)の成長から基板,エピタキシャル成長,デバイス製造,モジュールのパッケージングといった工程を全て垂直統合で完了できるような体制を構築しています。これによって,品質や納期を自社でセルフコントロールすることができる,唯一のサプライヤーとなっていきます。
センシングはASIL(Automotive Safety Integrity Level:自動車安全水準)やADAS(Advanced Driver-Assistance Systems:先進運転支援システム)への対応・達成に向けて人の眼を超えた最高の視覚を目指しています。例えばADASのレベル2,またはレベル2+の達成は大きな部分ですが,さらにレベル3,4,そして5に向かっていく中で,我々はさらに良い製品を作っていきたいと思っています。特に以前なら車1台に1個や2個だった車載カメラが6個7個と搭載されるようになり,将来的には10個,20個となっていくであろう中,やはり小型化をはじめとした様々な要望に対応していく必要があります。
Industry Recognition(業界評価)としては,「AR0820」という,ハイダイナミックレンジ140 dBと高い性能を持つ8.3 Mピクセルのイメージセンサが2022年のコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)でイノベ ーションアワードを受賞しました。あと,アメリカのテレビ業界の功績に与えられる2021年のエミー賞では,20年以上にわたってイメージセンサを提供してきた功績から,テクノロジー&エンジニアリング・エミー賞を受賞しています。撮影がフィルムからデジタルへ移行する中,我々の技術的な進展によって,デジタルテクノロジーを躊躇なく使える土壌を作ってきた長年の貢献が評価されたものです。もちろん映画業界だけでなく,車やインダストリアルにも使用されている技術ですが,半導体のサプライヤーとしてこうした賞を受賞する機会を得たのは非常にユニークだと思っています。
─環境問題でも評価されていますね
持続可能な企業やグリーンなど,そういうことに対する取り組みに対しても表彰をいただいています。他社ももちろん受賞されていると思いますが,弊社は特に注力しており,様々な活動を通じて,企業のミッションとしてのサスティナビリティや地球温暖化に取り組んでいます。その方法として我々はパワー半導体のような製品の開発に投資し,お客様にそれを提案するという両輪で地球規模の問題に取り組んでいきたいと考えています。
また,我々自身も二酸化炭素の排出について2040年までに「NET ZERO」を達成していきます。昨年,社名とブランドを一新しましたが,CEOの方針として全世界の気候変動にも取り組んでいく,会社として注力するというコミットメントを出していますので,それに連動した動きとなります。こうした価値観は社内外にも共有していきたいと考えており,アメリカの企業倫理に関する専門研究機関であるEthisphere Institute か ら は,World’s most ethical company(世界で最も倫理的な企業)として,半導体企業として7年連続で選ばれています。他にも多くのランキングなどで高い評価をいただいており,今後もこうしたサスティナビリティといった社会貢献に注力していきたいと考えています。