─日本におけるレーザー開発はどのようなアプローチで進められているのでしょうか?
レーザーの開発という意味では二軸あります。パワーと繰り返し数を上げていくことです。特に高繰り返しに対しては,日本では早くから着手していました。新しいレーザーの開発に注力して,昔はガラスレーザーが主流でしたけど,早い時期に半導体レーザーに切り替え,浜松ホトニクスさんや大阪大学が作り始めていました。当初は繰り返しが高いものの,出力が出ないというものばかりでしたが,徐々に出力が高くなっていきました。例えば,2021 年6月に浜松ホトニクスさんがハイパワーのパルスレーザー『HELIAレーザー』を完成させましたが,このレーザーは現状世界最高出力のレーザーになっています。
現在計画されているJ-EPoCH構想というのがあります。これは大阪大学と量子科学技術研究開発機構が中心となって進めているもので,高繰り返しのハイパワーレ ーザーが整備される予定です。この点において日本はかなり強みを発揮すると思っています。半導体レーザーへの切り替えというのは,今後世界中で起こってくると思いますので,日本が先行して技術開発を進め,それに関する技術の特許を保有,提供していくかたちになるのが一番良いことだと思っています。
我々の立ち位置としてはレーザーの開発というよりもはその周辺技術の開発にあります。1秒間に10回という繰り返し数が必要になると,ターゲットの供給量が増えていきますので,安価に安定供給することが重要となります。
─極端な話になりますが,例えば1秒間に20,30回という繰り返しの高いレーザーの方が
核融合にとっては非常に良いということでしょうか?
そういうことになります。大阪大学が現在開発しているレーザーやJ-EpoCHのレーザーは100 Hzという非常に高い繰り返し数を有しています。実際,炉に搭載して運転させることを考えると,炉を10個作って10 Hzずつに分けて反応を起こしていくといった工夫をすることもできます。
レーザー核融合の場合,炉は複数あっても良いわけです。これが磁場閉じ込め方式ですと,炉とコイルを分離することができないため,一つの装置に対して炉だけ複数台整備することはできません。炉を複数に分散させることで,炉ごとに用途や出力を変えられますし,メンテナンスも容易です。そういった点ではレーザー核融合の方がはるかに優れていると思います。
─御社の今後の事業展開についてお聞かせください。
私は大阪大学の方に属して研究を行なってきたわけですが,EX-Fusionは光産業創成大学院大学の技術を移管して設立された会社です。これまでの産学連携の枠組みを強化していく形でレーザー核融合商用炉に向けて研究開発を進めていくのがミッションと考えています。
具体的には,日本が強みを発揮している要素技術を集約し,インテグレーションやチューニングに特化して試作機開発による技術的実証していきたいと思っています。その中身としては先程も述べたように,動いているターゲットにレーザーを当てるという,10 Hz連続定常運転の実現や,安価なターゲットの開発と供給です。これらはなかなか大学では手を出しづらいところと言いますか,要は開発研究になるのであまり論文になりづらいというのもありますし,大学では自由に人員を増やしたりできませんので,我々がそういったところを担っていければといいかなと思っているところです。
─開発のロードマップというのはあるのでしょうか?
図2に示しているロードマップに沿って開発を進めていく計画です。現在はレーザーの制御の部分に特化して行なっています。その後,インジェクタの開発やトリチウムターゲットの生成という,ややニッチなところの技術開発を行なっていく予定です。
レーザー自体の計画は,レーザー学会が出されていまして,2030年代にJ-EpoCH構想の実現があり,2040年に商用炉『HYPERION』を実現すると示されていますので,それに対して技術提供や,海外にも技術提供を行なっていく会社にしたいと思っています。
─将来的なビジネス展開をどのようにお考えですか?
開発はターゲット連続供給装置やレーザーの制御技術ですが,これらの技術がレーザー核融合で使われなかったとしても,レーザープラズマ実験やレーザー加工,半導体製造などで応用が可能な技術になるはずです。その意味では横展開も考えられるので,現在はレーザーの制御に注力しています。
─レーザー核融合炉が拓く未来をどのようにお考えですか?
無尽蔵なエネルギーを生み出せるというのは大きなメリットと考えます。要は石油など他国の資源に頼らずに自国でエネルギーの自給率を上げていく必要があると考えると,核融合は海水から燃料がとれるので,基本的には場所に依存しないという観点でも,非常にいい技術かと思います。また,こうした技術で他国と提携していくというようなことも考えることができます。そのためには教育も大切で,それを含めて提供していくことができるのではないかと思います。
私は今はクリーンエネルギーや脱炭素というのは手段だと思っていて,目的はレーザー核融合の実現にあると思っています。通常は逆だと思いますが,私にとっては逆ではありません。なぜなら手段は目的を叶えるためのもので,レーザー核融合を含め核融合はまだ,その段階にはないのが現状だからです。要するにそれが絶対にクリーンエネルギーや脱炭素をすべて解決できる手段かというとまだわからないからです。
ですから,今はあくまでクリーンエネルギーや脱炭素を手段として使わせてもらい,もし核融合が実現できたら,それが逆転され,核融合を手段として,クリーンエネルギーや脱炭素化の実現を叶えていくという方向になれば良いと思っています。ですから,私たちは今,レーザー核融合を手段にするために頑張ってやっているところなんです。
(月刊OPTRONICS 2022年06月号)