レーザー核融合技術をクリーンエネルギーや脱炭素化の手段にする!

─割とすぐに起業することを考えたのでしょうか?

そうですね。設立したのは2021 年7月ですが,起業を思い立ったのはその年の1月くらいです。4,5月くらいの時点で技術者の方に相談したりし始めました。すぐにでもということで,私も大学の方を辞め日本に帰国して会社を立ち上げました。

設立後の8月には,レーザー核融合の分野で大きなニュースがありました。NIFの成果ですが,2018年から比べて25倍の核融合出力達成したというもので,Q値(エネルギー増倍率)でいうと0.71 です。磁場閉じ込め方式ではJETが持っているレコードが0.69だったと思うので,それよりも高い数値を達成したことになります。

これが非常に話題になり,設立時期が近かったこともあって狙って立ち上げたんじゃないか?みたいに言われましたけど,そんなことはありません(笑)。ただ,そのお陰もあってかベンチャーキャピタルの方からの問い合わせが非常に増えました。

EX-Fusionという会社名ですが,私がレーザー核融合でやりたいことを並べた時にEXで始まることが多かったことに由来しています。例えば,エネルギーの取り出しはExtract Fusion Energyになりますし,レーザー核融合の場合,応用が広いのでそれを探索して行くとなると, Explore Fusion Applications になります。

また,核融合はエネルギーを生み出すだけでなく,例えばレーザー核融合ロケットみたいなものを研究されている方もいらっしゃるので,Expand Fusion Possibility という,そういった可能性も広げていきたいという思いもありました。

レーザー核融合の研究は,50年以上前からやられていて,エネルギーを生み出すという出口を目指されてきたわけじゃないですか?そういう出口を担う一役を買えたらという思いもありました。出口はexitと書きます。全て頭文字はEXでしたので,EX-Fusionと名づけたわけです。

EX-Fusionをさらに調べてみると,世界的にも有名な某漫画で描かれている2体のキャラクターが合体するととんでもなく戦闘力が上がるというシーン,その正式名称をエクスフュージョンと言います。この漫画,ものすごく人気があるじゃないですか。それを超えてみたいと(笑)。そういう意味ではレーザー核融合炉が世間の皆様から人気(注目)を集める分野になれるといいなと思っています。

─核融合炉について,磁場閉じ込め方式とレーザー方式の違いをご説明いただけますか?

磁場閉じ込め方式というのは,高温のプラズマを磁場で閉じ込めることによって発電するという手法です。核融合を起こすだけでしたら温度が一番重要なパラメータとなり,それで起こるかどうかが決まります。発電となるとプラズマの密度が高いか,もしくは閉じ込め時間が長いかという2つのパラメータが重要になりますが,どちらかというと閉じ込め時間の方を優先したのが磁場閉じ込め方式というものになります。

一方,レーザー核融合の方は燃料となるような物質をレーザーで圧縮,加熱して瞬間的に核融合反応を起こします。この方式はどちらかというと密度の方を大事にした核融合反応と思っていただければ良いかと思います。レーザー核融合はレーザー照射の繰り返し数を変えることによって発電量を調整できる手法になります。

海外では,政府系のプロジェクトが二つともあります。磁場閉じ込め方式で一番有名なのはITER計画。フランスで建設が進んでいて,2025年には実験を開始すると言われていますが,かなり時間を要しているようです。日本では,量子科学技術研究開発機構が開発を担っているJT60-SAという装置があります。ITER計画では当初,日本とフランスが建設誘致の争いをしていて,結果的にフランスの方に行ってしまったのですが,JT60-SAがITER計画をサポートする装置として開発されています。日本は,かなり磁場閉じ込め方式の開発には積極的でした。

日本は資源もないですし,土地も狭いですし,かつ原子力発電所の新設が難しいという三重苦を背負った上で,クリーンエネルギーをやらないといけないので,結果的に磁場閉じ込め方式の核融合炉しかないみたいな解にな ってしまっているということもあり,昔から研究されています。

民間企業に目を向けますと,Commonwerlth Fusion Systemsというベンチャー企業があります。この会社はアメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)発のベンチャーですが,元々は政府の支援が打ち切られて解散となった研究施設が母体となり,ベンチャーとしてリスタ ートした会社です。2021年にビルゲイツを中心とした投資家が2,000億円投じて,資金調達したというので有名になりました。磁場閉じ込め方式というのは構造上シンプルではあるので,とにかく大きなものをいかに早く作るかみたいな開発競争があると思っています。

ただ,発電するとなった後が結構問題で,放射化の問題があるので,結局2年に1回ぐらいの間隔で装置自体をリプレースしないといけません。装置は直径50 m という大変大きな装置なので,それをリプレースするというのは現実的なのかどうかという議論はあります。

レーザー核融合の方も昔から政府系のプロジェクトがたくさんあります。アメリカのNIFやフランスのLMJ-PETAL,中国の神光-Ⅲといった計画です。日本は阪大レーザー研を筆頭に,光産業創成大学院大学,浜松ホトニクスさんがやられています。

ーザー核融合研究というのは防衛に絡むみたいなところもありまして,国際プロジェクトというのが存在しません。ITER計画では国際プロジェクトで色々な国が参画していますが,レーザー核融合の分野ではそういうのはなく,プロジェクト単位では国独自で進めていき,学会等で学術的な交流を行なっています。

他国では国立の研究所がレーザー核融合を進めていくわけですが,日本はこれまで産学連携で進められてきているというのがポイントです。そのような中で,我々は主に光産業創成大学院大学さんから技術移管を受けて,レーザーを制御する部分の技術開発を進めています。

─レーザー核融合研究で,2021年8月に発表されたNIFの成果はどういったところが注目点で,
どういうことが期待できるのかを解説していただけないでしょうか?

レーザー核融合の場合,中心に高温のプラズマがあって,その周りを燃料部と言われている低温のプラズマが囲っているのですが,まず高温部で核融合反応が起こり,それが連鎖反応的にバッと燃え広がることで核融合反応が続きます。要するに燃え広がるとたくさん核融合反応を起こすので,核融合反応で得られる出力がドンと上がります。

燃料をレーザーで圧縮するのですが,変な形で潰してしまうと,高温と低温が混じり合って中途半端な温度になって結局核融合反応は起こりません。そのようなことを如何にして解決していくかの研究が進み,ようやく去年の8月にこの出力がドンと出たというわけです。これは2018年時点での成果から25倍も出力が増えているので,見ようによっては上がりすぎではないかと思われるかもしれません。ですが,燃え広がれば一気に出力が上がるのが方式の特徴なのでそれが見え始めたところが一番大きな出来事だったと思います。

我々も行なってきたことが正しかったという実証になると感じました。ただし問題は,発電における指標を満たすかどうかです。問題点は二つあります。一つはあくまでNIFのそれは一回の出力なので,発電となるとそれを連続的に安定して行なう必要があります。一回でいいならば静止しているターゲットにレーザーを集光し,核融合反応が起こせればいいわけですが,連続でその反応を起こすためにはターゲットを連続供給し続けて動いているターゲットに対してレーザーを当てて圧縮しなくてはいけないという技術的なハードルがあります。

もう一つは電力料金の問題です。現在はkwh当たり27円かと思います。レーザー核融合の場合はターゲットを1秒間に10個とか消費するのですが,そのターゲットの価格が高いので,27円では到底ペイできません。レーザ ー核融合は実現できるかもしれませんが,めちゃくちゃ電気代が高くなるというのが問題になります。

これらを解決するためにやらないといけないことは二つあります。一つはレーザーの制御です。動いているタ ーゲットに対して高精度にレーザーを当てて,止まっている状態と同じような状態で圧縮するということ。もう一つがターゲットを安価に供給することです。我々EX-Fusionはこの二つの技術開発を行なっています。

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