(大西)「Digital Twin Computing」は,「All-Photonics Network」や「Cognitive Foundation」によって情報があまねくネットワークを通じて収集できる世界がやってきた時に最上位層となるものです。Digital Twinとは言葉のとおり,リアルな世界にあるものをバーチャルの世界に持ってきてシミュレーションしようという既存の概念で,よくあるのが工場の設備や飛行機のエンジンの中をセンサーで情報収集して,まるごとコピーをデジタルの世界で実現しようというものです。コンピューターで仮想的にシミュレーションした結果を現実世界にフィードバックできるのが強みで,リアルに存在するものの完全なコピーを,バーチャルな世界に構築することが重要となります。
IOWNの「Digital Twin Computing」には大きく二つの機能があります。まず一つは,リアルのコピーに終始するのではなく,コピーしたパーツを組み合わせる,あるいは能力を交換することで,現実世界より広範なシミュレーションや,正確な未来の予測といった世界を目指す,つまり現実よりもさらに複雑な世界をバーチャルで実現し,そこでシミュレーションした結果をリアルにフィードバックする概念が含まれています。Digital TwinにComputingという言葉を加えたのはこのためです。
もう一つは人に関するものです。あくまで現状のDigital Twinの対象はモノで,ヒトをバーチャルな世界で扱うというのは極めて難しい問題です。ヒトを扱うとなると,究極的には人間の脳をコピーしてデジタルな世界で再現することになりますが,それはまだ技術的にも倫理的にも困難です。
ただ,そこまでいかなくても,例えば人間の特性,考え方やクセ,性格などをデジタルの世界に取り込むことによって,ヒトという要素も含めたシミュレーションと未来予測をしようとするのが「Digital Twin Computing」の大きな特徴で,色々なパーツの組み合わせをヒトという側面も含めて行なうものです。
人間のクセや特徴を抽出してシミュレーションする技術はまだありませんが,我々はすでにコールセンターなどで,電話をかけてきた方が怒っている,あるいは緊急を要しているといった感情を読み取る技術を持っています。そうしたところから,人間の要素をいかにデジタルのシミュレーションの世界に取り込んでいくか,ということに踏み込んでいきたいと考えています。
─IOWN構想を発表するに至ったきっかけは?
(芝)2019年4月に我々が発表した光トランジスタの報道発表があります。従来の光トランジスタに比べて消費電力を94%も削減できるような原理が確認でき,「ネイチャー・フォトニクス」に掲載されました。こうしたブレイクスルー技術によって,信号処理,情報処理の部分も含め,光の技術によって新しい世界が作れる可能性が見えてきたことが,IOWN構想の発表に繋がりました。
それまでの光トランジスタは小型化もあまり進まず,消費電力もそこそこのところで止まっており,電気から光に移行するというモチベーションがあまりわかない状況でしたが,この技術によってようやく光が電気と同等の位置に立ち,今後消費電力を落としていける見込みもついてきました。