ランプの光が 未知なる小惑星へと探査機を導く─世界を驚かせた成果を支える職人の技

◆宮田 智幸(ミヤタ トモユキ)
ミヤタエレバム(株) 代表取締役

1990年 ST. MARY'S INTERNATIONAL SCHOOL 卒業
1994年 米国UCLA大学院修士課程 修了 1994年 某大手国際通信会社 入社
2004年 インターネット関連のコンサルティング会社を設立
2011年 ミヤタエレバム㈱代表取締役を兼任

惑星探査機「はやぶさ2」は3年半という月日をかけて小惑星「りゅうぐう」に到着し,観測装置の投下や2度の着陸と土壌の採取,衝突装置による人工クレーターの作成など八面六臂の活躍を見せ,今なお小惑星上に留まってミッションを続けている。

世界的にも前例のないこのプロジェクトを支えるのはもちろん日本の製造業の技術力だが,その一つであるターゲットマーカーの照射用ランプは,半導体光源全盛の今日においてキセノンランプが使われているのをご存知だろうか。

ターゲットマーカーは反射材で作られた球で,小惑星上に投下され着陸時に自機の水平方向の動きを計測する目標となる。それを照らすランプは,いわば宇宙の水先案内人とも言える重要なデバイスだ。

日本の宇宙技術の一端は,ランプを手作りする職人が支えている。今回はこのランプを製造したミヤタエレバムを訪ね,話を伺った。

─会社の事業内容と沿革を教えてください
技術的な話は技術責任者の西森憲一氏(左)に対応していただいた
技術的な話は技術責任者の西森憲一氏(左)に対応していただいた

(宮田)当社の前身である宮田電機製作所の設立は102年前の1917年(大正6年)になります。研究者だった私の祖父がアメリカから持ち帰ったGEの真空管を参考に製作を始めたのが最初で,そこから真空測定装置などで使われる製品の開発やキセノンランプも手掛けるようになり,現在に至っています。

主な製品は硬質管と石英管のランプの2種類で,職人が手曲げで作っています。例えば1本のガラス管をよじって曲げて,小さいスペースの中に収めていくような,機械ではできない製品を手掛けています。単純に曲げるだけなら機械でもできますが,ガラスは熱で柔らかくして曲げるので,そのまま曲げると断面が楕円になってしまい,光源としてばらつきが出てしまいます。当社の場合は職人が口から空気を入れて,圧力をかけながら曲げていくので真円で曲がっていきます。ここが難しいところで当社技術の特長でもあります。

例えば使い捨てカメラのフラッシュランプのような価格重視で精密性が求められていないものは自動機で大量生産できます。それらの製品は海外でも十分対応できますので,当社では自動機では製作できない精度が要求されるものを製造しております。市場は非常に狭いですが,消えるものではありません。

同じカテゴリの連載記事

  • レーザーを使いこなし,品質保証に繋げる加工プロセス開発が重要 ㈱デンソー 白井秀彰 氏 2024年08月12日
  • 人を大切にし,働きやすい会社を目指して ㈱日本レーザー 代表取締役社長 宇塚達也 氏 2024年07月10日
  • 光プラスαの技術で水中ビジネスを加速させる! ㈱トリマティス 代表取締役 島田雄史 氏 2024年03月12日
  • 学術と産業の架け橋となり,更なるイノベーション創出を (一社)レーザー学会 会長 久間和生 氏 2024年01月15日
  • 芽から幹への成長が期待される面発光レーザーの産業化 東京工業大学 栄誉教授/元学長 伊賀 健一 氏 2023年12月07日
  • 日本が実用化の先導役となるか!?注目のペロブスカイト太陽電池開発動向 桐蔭横浜大学 宮坂 力 氏 2023年10月06日
  • パワー半導体とイメージンセンサーの両輪で挑んだ日本市場の一年とは オンセミ 日本法人代表取締役 林 孝浩 氏 2023年09月29日
  • 眼に装着する究極のディスプレー─ホログラムが可能にする未来とは 東京農工大学 高木 康博 氏 2023年09月27日