ランプの光が 未知なる小惑星へと探査機を導く─世界を驚かせた成果を支える職人の技

─これは専用の製品ですか?
「はやぶさ」「はやぶさ2」に積まれたキセノンフラッシュランプ
「はやぶさ」「はやぶさ2」に積まれたキセノンフラッシュランプ

(西森)宇宙でしか使わない機能が入っているので専用となります。フラッシュランプは単純にガラスの棒に電極が入ったような構造で,プラス側とマイナス側にトリガー電極があって金属のワイヤーが巻いてあります。家庭用の電球はAC電源につないだらスイッチを入れれば光りますが,フラッシュランプはプラスとマイナスの他に,このトリガー電極に電圧がかからない限り光らないようになっています。

汎用製品は単純なガラス管に,プラスとマイナスの電極とトリガー電極が付いているだけですが,宇宙空間は真空状態で空気が無いという点で地上と違います。空気というのは絶縁物ですので,ふつうに地上で使う場合はトリガーの電圧がかかったとき,例えばプラス側とトリガー,マイナス側とトリガーという具合に,電極とトリガーの間でショートすることはまずありません。

キセノンフラッシュランプの搭載位置(模型は「はやぶさ初号機」)
キセノンフラッシュランプの搭載位置(模型は「はやぶさ初号機」)

宇宙ではこの空気という絶縁物がないので,どういった放電をするかがわからないという問題があります。そこでトリガーと電極の間に刀の鍔(つば)のようなものを壁として作って沿面距離をかせぎ,ショートしないようにしています。万一ショートしてしまうと,ランプが光らないのも当然ですが,場合によっては回路のほうも壊れてしまい,元も子もなくなってしまう可能性があります。

─絶縁以外にも求められた性能はありますか?

(西森)これはガラス製品ですが,やはり打ち上げの際の振動が非常に大きいということで強度を求められました。そこで困ったのはガラスと電極の接合部分です。電極は金属ですが,金属とガラスはどうしても溶け合わないので,その部分の強度をどれだけ上げられるかが問題でした。

宇宙空間では不純ガスがどう影響するかわからないので接着剤が使えません。要はガラスの一体物でどうにか作れないか,ということになったのですが,作り方一つでこの接合部分の強度がまったく違ってきます。この材料を使えば絶対大丈夫というものがないので,結局は職人の技術に頼らざるを得ません,また熟練度によっても出来が大きく左右されるので,製品のばらつきを抑えるのも苦労したところです。

あと重量はなるべく軽くすることを求められたのとサイズも決まっていたので,そこにギリギリ収まる大きさとしています。そして何より明るいことです。回路のほうでどれくらいのエネルギーを入れるかという条件に合わせて仕様をつめました。

─ランプに封入されているガスの圧力は真空下で影響しませんか?

(西森)ランプを作るときは真空状態にしてからキセノンガスを封入するのですが,封圧は基本的には大気圧以下,真空に近い状態です。光らせれば当然,発光の熱があるのでガスは膨張しますが,それでも大幅なプラス圧になることはありません。先ほど言いましたように強度を重要視して作っていますので,何かがあって破裂するようなことはまずないと思います。

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