ランプの光が 未知なる小惑星へと探査機を導く─世界を驚かせた成果を支える職人の技

─不良品の率が一定以下でないと宇宙では使えないと聞いたことがあります

(西森)そうですね。最初の時はそれこそ何十種類と作って最終的にこの形になったのですが,採用されたのは2本だけです。実際には同じ形のものを他にも100本くらい作っていますが,それらは全部スクリーニング試験用です。それで問題が無かったので,最終的に残しておいた2本が採用になったということです。

(宮田)一番大変だったのは,社内で試験ができないことです。疑似的に宇宙空間を作る真空チャンバーを持つ会社に製品を持ち込んで試験の結果を待つ。これに時間がかかりました。例えば1~2時間で済むような試験でも1往復で1~2週間かかるわけです。「はやぶさ2」では初号機と全く同じランプを使っているので,スクリーニングの回数もだいぶ少なくて済んだので助かりました。

(西森)実際にはターゲットマーカーを降ろすたびに光らせているはずなので,おそらく何百回,何千回と光っていると思いますし,今回はわかりませんが,初号機では小惑星の写真を撮る時のストロボとしても使ったと聞いています。こうして使っていくと,どうしても電極がもろくなったり,ガラスが痛んだりもしますので,このランプは1万フラッシュを寿命として定義しています。これは余裕を持った設計ですので,今回のミッションでは全く問題ありません。

─最初にJAXAから依頼を受けたのはいつ頃ですか?

(西森)今飛んでいるのは「はやぶさ2」ですが,はやぶさの初号機からこのランプを使っていただいています。その初号機が飛ぶ10年くらい前ですから,1990年代からお話をいただいて,それこそ3年くらいいろいろ試行錯誤しながら実際にテストを受けたり,何種類も試作品を作ったりして,最終的にこの形にたどり着きました。

そもそもこの話は,「はやぶさ」の初号機の製造拠点が横浜市の鴨井にあった頃,そこに出入りしていた業者さんが,ランプを作っている会社は知らないかと聞かれたところから始まったそうです。それがたまたまうちの使っていた業者さんで,その縁でお話が来たというわけです。JAXAの地元(相模原)の企業を中心に部品などを集めていたようで,「はやぶさ」から民間企業が多く参入するようになったことも採用に影響していると思います。

─職人の数が減っていると聞きます

(宮田)やっぱり一人前の職人になるには最低でも3年は必要です。当社でも人員の募集をかけていますが,じっくり一つのものを地道にやっていこうという子は少なくなっています。なんとか数名はいますが,思い描くような人数は集めづらいのが現状ですね。

その影響もあって,だいぶ前から日本国内だけでは仕事を回せなくなっていますが,この状況は日本国内に限ったことではありません。当社は海外とのネットワークを持っていて,フランスとドイツの企業と協力関係を結んで協力を仰ぎながらやっていますが,あちらもその国だけでは賄いきれないという状況なので,そこはもう融通しあいながらやるしかありません。

昔は本当に「この仕事」,となったらこの仕事しかありませんでした。当社の現役の社員にも若い頃に東北から出てきて,ひたすらこの道でやってきたという職人がいます。今は職業が多様化していろんな仕事がありますから,わざわざつらい道に進むという子はだいぶ少なくなりました。

中国の会社とも協力関係を結んでいますが,中国のほうがそういう面ではよっぽど人材に恵まれています。まさに向こうではこの仕事しか私にはない,これを辞めたら本当に仕事がないという状況ですから,勤勉にひたすら手で曲げています。そういう意味では世界レベルで見れば十二分に職人はいます。

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