量子産業の未来図を描く

著者: 望月 あゆ子

量子への注目が世界的に高まるなか,トプティカフォトニクスのレーザーシステムが存在感を増している。日本での展開をさらに加速させているPresident and Chief Sales Officerのトーマス・レナー氏に,縦横無尽に語っていただいた。

トプティカフォトニクス President のトーマス・レナー氏

日本市場の重要性

─まずは御社について,改めてご紹介いただけますか

弊社は,ドイツのミュンヘンを拠点としたレーザーシステムメーカーです。主に理科学分野や産業分野向けにフォトニクス製品の製造・販売を行なっていますが,量子技術,バイオフォトニクス,半導体市場でビジネスを展開しています。

─日本市場をどのように見られていますか。また,今回の大阪支店の開設の意図とは

日本の市場を非常に有望視しており,大きな可能性を秘めていると感じています。ハイテク分野で成長している市場であり,当社の事業領域とも非常に相性が良いと考えています。25年前から日本のマーケットに進出していますが,それをさらに強化するために9年前に東京支店を立ち上げ,メンバーも4人から9人に増やしました。今年の11月に大阪支店を開設いたしました。

その意図としては,東京エリアには確固たるカスタマーベースがあり,アカデミアと産業分野,両方で非常に強固なビジネスが確立できているのですが,関西エリア,西日本エリアに関しても同じようなビジネスのポテンシャルがあると考えたからでした。

広がるレーザーの需要

─注力している分野の一つとして量子技術があると聞いています。

2024年9月で2024-2025期が終了し,最終的には1.4億ユーロ(約250億円)という比較的良好な業績で締めくくることができました。約50%は量子アプリケーション分野からの収益によるものであり,TOPTICAグループの成長に大きく寄与しています。おかげさまで毎年着実な成長を続けており,常に大きな目標を掲げていますが,その達成を目指して取り組んでいます。今後も利益を着実に積み上げながら,新しい製品への投資も進め,確実にステップアップしていきたいと考えています。

─御社における量子技術の位置づけとは

量子技術は,次世代にわたって極めて重要な分野になると考えています。量子コンピューター,量子通信,量子センシングなど,社会実装が期待されるさまざまな領域で研究開発が進められており,それぞれの用途に適したレーザー装置が必要になります。

大阪支店長の西本氏(左)、代表取締役の斎藤氏(右)と語らう、トーマス・レナー氏(中央)

「all wavelengths.」に込めた想い

弊社は「all wavelengths.」という理念を掲げています。これは「すべての波長をお届けする」という意味が込められています。この理念を支える技術は非常にユニークなものですので,量子に関する幅広いニーズすべてに応えられるのは,当社だけだと自負しています。

たとえば精密さの点では,量子光学分野のお客様は10–10~10–21桁という極めて高精度の波長制御を必要とします。標準時間の候補として注目されている光量子時計(量子クロック)では,なんと10–17桁という,過去に例のない精度が求められます。当社ではこうした要求に応えられる技術をいち早く提供することができます。さらに,ソフトウェアを含めた包括的なシステムとして提供できる点も弊社の大きな強みです。

─御社が量子分野で評価されている理由とはなんでしょう

弊社には,量子分野に特化した研究者が100名以上在籍しています。彼らはノーベル賞級の研究を行なう世界的に著名な研究室で博士号を取得した研究者たちで,非常に優秀です。そのため,弊社のアプリケーション開発はお客様の最先端研究と密接に結びついており,著名な研究室と強固なネットワークを築くことができています。光量子時計など非常に高度な製品をリリースすることが出来るのは,こういった人的資源と研究者との深い連携があるからだと考えています。

世界で進む量子技術開発

─欧州を中心とした量子技術の現状と今後の発展について

世界的に量子技術が強い地域は,やはりアメリカ,欧州,中国の3つです。日本もQ-LEAP(光・量子飛躍フラッグシッププログラム)やMoonshotをはじめとする大型プロジェクトもあり,量子技術の産業化に向けた研究開発が大きく進んでいます。各地域にはそれぞれ特徴があります。アメリカは民間投資が非常に活発で,十数億ドル規模の巨額投資が行なわれています。

欧州と日本は比較的リスクを慎重に見極めながら,まずは研究機関が中心となって開発が進められていますが,日本は政府からの経済的支援も進んでいるのが特長です。中国は少し特殊なのですが,次世代の重要技術と位置づけた分野に対し,政府が集中的に資金を援助していくという形で,非常に強力な開発体制が進んでいます。また,インドやシンガポールでも研究が着実に進んでいます。ここからの5年間,量子分野への資金調達は世界的に非常に活発になると確信しています。

─欧州と日本の量子技術開発における補完関係をどのように見ていますか

欧州と日本は,ともに非常に高度なエンジニアリング技術を持ち,量子光学に深い知識を持つ研究者や著名な大学教授といったキープレイヤーが多い点でよく似ています。その一方で,注力している分野には違いがあります。欧州は主に量子コンピューターの開発に大きな関心が寄せられていますが,日本は量子通信や量子インターネットといった,よりマスマーケットに近い領域に力を入れています。

グローバルな協調への期待

─今後の展望についてお聞かせください

展望については非常に明るいと言えます。我々が得意としているレーザーは今後,新しいアプリケーションが多岐にわたって拓けていくと見ています。それらを具体化し社会実装していくためには,より使いやすく,小型で扱いやすい製品にしていくことが重要です。レーザーが「物理学者だけが使う特別な装置」ではなく,モバイル端末のように日常的に誰もが扱える存在になることが理想です。

ユーザーが意識しなくても,ランプや電気のように自然とレーザー技術を使っている状態を目指すべきだと考えています。弊社がリリースしたモジュール型レーザーラック「T-RACK(ティーラック)」も,その流れを象徴する製品です。持ち運びが容易で,より実用性を高めたレーザーとして,今後の応用可能性を大きく広げていくものとして期待しています。

モジュール型レーザーラック「T-RACK(ティーラック)」

─日本との協働により,今後どのような可能性が広がるとお考えですか

もう一つ,今後さらに発展していくためには,各国間での情報共有やオープンな交流が欠かせないと考えています。お互いのアイデア,強み,弱みを率直に意見交換するなどで交流を深めていくことが重要です。しかし残念ながら現在は,地域ごとにナショナリズムが高まり,国同士がブロックし合う状況が続いています。これは技術発展にとって望ましい状態とはいえません。特に日本と欧州という視点で見る
と,こうした壁を取り払い,自由で開かれた交流が進むことによって,お互いの地域がお互い発展していくと確信しています。開かれたコミュニケーションとリレーションシップを期待しています。

(月刊OPTRONICS 2026年1月号 Human Focus「量子産業の未来図を描く」)

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