【解説】青色半導体レーザーの高出力化が進展も,実用化にはビーム制御も重要

島津製作所は,同社製の青色半導体レーザー光源「BLUE IMPACT」について世界最高出力となる6kWを達成するとともに,青色レーザーでは世界で初めて加工対象に合わせて照射ビームの形状を調整できるオンデマンドプロファイル制御技術を搭載したと発表した(ニュースリリース)。

電動化に伴い,自動車の主要部品はエンジンや変速機からモーターやバッテリーなどに置き換わり,電気と熱の伝導率の高い純銅材の加工需要が拡大している。従来のレーザー加工で用いられてきた赤外線と比べて,波長400nm~460nmの青色光を発振する青色半導体レーザーは,金属に対する光吸収効率が高く,純銅材の加工に適している。

また,半導体レーザーは従来のレーザーより応答速度や遠隔操作性に優れており,メンテナンスフリーという特長がある。そのため青色半導体レーザーは,今後の電気自動車(EV)普及で重要となる純銅材の溶接に欠かせないツールとなっている。

6kW青色半導体レーザー光源は,新たに開発した1kW青色半導体レーザー光源と,同レーザー6台の出力光を結合する独自の加工ヘッドで構成されている。1kW青色半導体レーザーの出力ファイバーには長方形のコア形状(200μm×400μm)を採用した。

従来の円形形状だと走査した場合,中心部と周辺で熱の伝わり方に差が生じるが,長方形の場合は全域で均一に熱を伝えることができ,かつ照射面積の拡大で高輝度化が図れるため,安定した高速加工が可能となる。

さらに,束ねたレーザー6台の出力や照射位置をそれぞれ独立制御できる,世界初のオンデマンドプロファイル制御を実装した。加工対象物の形状に合わせて,溶接の中心部には強いレーザー光を照射し,その周りは弱いレーザー光を照射するように制御することにより,溶接時に溶融した金属粒子の飛散を抑制でき,高品質な加工を実現できるとしている。

加工用途においてレーザーの高出力化開発は,必須の目標の一つとなる。加工用レーザーのうち,特に注目度が高い可視光波長域のレーザーの高出力も,そのニーズが一際高まっている。

加工用の高出力可視光レーザーが求められている背景には,自動車の電動化に伴い,熱伝導率の高い銅材の使用量が高まっていることが挙げられる。可視光,特に青色波長帯は銅の光吸収率が高いことが知られ,銅が採用されるモーターや電池の加工において青色レーザーによるプロセス開発が進んでいる。

しかしながら,高出力化が必ずしも製品加工に良い効果をもたらすとは限らない。「高出力化も重要だが,加工プロセス開発において,スパッタ(火花)やヒューム(煙)の発生メカニズムを理解する必要がある。なぜなら,これが加工部品の品質にダイレクトに効いてくるからだ」(自動車部品メーカー)という声もある。

そのため,いまやはレーザー加工の開発トレンドはレーザービーム制御とモニタリングにあるという。今回の島津製作所の発表も,照射ビームの制御が付加されていることが強調されている点も注目だ。なお,この6kW出力の青色半導体レーザーで加工したサンプルは,2024年7月17日と18日の2日間,マイドームおおさかで開催される光・レーザー関西2024の青色半導体レーザー接合加工共創コンソーシアムで出展される予定だ。(月刊OPTRONICS編集長 三島滋弘)

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