名大ら,結晶写真とAIで結晶粒方位分布を予測

名古屋大学と理化学研究所は,多結晶材料の光学写真から機械学習モデルにより結晶方位分布を精度よく予測することに成功した(ニュースリリース)。

多結晶は,多くの結晶粒から構成される複雑な組織をしており,その性質は微視的な結晶粒の方位分布によって大きく変化する。例えば構造材料の強度や耐腐食性,多結晶材料を光吸収層とする太陽電池のエネルギー変換効率などは,結晶粒の方位や,結晶と結晶の境界である粒界の特性などによって変化する。

そのため,優れた特性の多結晶材料を得るには結晶粒方位分布の制御が求められ,結晶粒方位分布の測定は材料開発において極めて重要となる。

一般的に結晶粒方位分布の測定は,走査型電子顕微鏡を用いて電子線を走査しながら回折パターンを解析するEBSD(電子線後方散乱回折)により測定される。この手法では,電子線を用いることから空間分解能には優れているが,高価な設備が必要であることや,大面積試料の測定に長い時間がかかることが課題だった。X線による測定も可能だが,さらに装置が特殊であり,同様に測定時間に課題がある。

そこで研究では,多結晶材料の表面を溶液で処理した後に,さまざまな方向から照明をあてて撮影した光学写真に対して機械学習モデルを適用することで,結晶方位を予測することを試みた。

実用太陽電池に用いられている約15センチ角の多結晶シリコン基板を対象とし,まず,多結晶シリコン基板をアルカリ溶液に浸漬することで異方性エッチングを行ない,可視光に対する反射率が結晶粒方位に依存するような表面状態を形成した。その後,白色照明をさまざまな角度から照射して光学写真を撮影した。

複数の基板の結晶粒方位分布を,特殊なX線装置により100時間以上かけて収集し,機械学習モデルの教師データとして利用した。機械学習モデルは,光学写真の各ピクセルの光強度プロファイルを入力とし,結晶粒方位を表すベクトルを出力とするLSTM(超・短期記憶)ネットワークとした。

さらに,入力の光強度プロファイルをデータ的に回転させるデータ増強を用いることで,予測精度誤差の中央値が3°以内と高い精度を得ることに成功した。今回の測定に要した時間は,光学写真の撮影,機械学習モデルの訓練、,位の予測を全て合わせても1.5時間程度であり,従来技術よりも遥かに高速となったという。

今回の成果は,原理的には多様な多結晶材料の結晶粒方位分布予測への展開が可能であり,研究グループは,材料開発を革新する技術だとしている。

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