浜松ホトニクスは,パルスレーザ装置のレーザー媒質を冷却する能力を高めるとともに,励起用半導体レーザー(LD)モジュールの出力を最適化することで,エネルギーが100Jのパルスレーザーを10Hzと高い繰り返し周波数で出力することに成功した(ニュースリリース)。
核融合とは原子核同士が融合する反応のことで,融合する際に大きなエネルギーが発生する。レーザー核融合とは,重水素と三重水素を入れた燃料カプセルに高出力のレーザーを照射することで核融合を起こす技術。
レーザー核融合の実用化には,1MJと高エネルギーのパルスレーザを10Hzと高繰り返しで核融合燃料に照射する必要があることから,同社は,レーザー媒質をLDモジュールで励起しヘリウムガスで高効率に冷却するレーザー増幅器を用いた高出力,高繰り返し周波数のパルスレーザー装置の研究開発に取り組んでいる。
同社は2021年,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と共同で,LD励起では世界最高となる250Jのパルスレーザを0.2Hzで出力する平均出力が50Wのレーザ装置を開発している。このため同社は,繰り返し周波数の向上に取り組んできたが,周波数を高めることでレーザー媒質の温度が上昇し特性が劣化する問題があった。
今回,レーザー媒質の冷却の仕組みを工夫することでヘリウムガスの流量を増やし冷却能力を高めるとともに,励起用LDモジュールの出力を最適化しレーザー媒質の温度上昇を防いだ。この結果,レーザー媒質の特性の劣化を抑えることで,100Jのパルスレーザを10Hzと平均出力1kWで出力することに成功した。
この成果により,装置の規模を拡大することで平均出力を高めることができる可能性を確認したことで,レーザー核融合の実用化における重要なマイルストーンである,1kJのパルスレーザを10Hzで出力する技術の確立に向け前進した。また,基礎科学の分野での新たな研究に貢献できると期待されるとする。
世界の主要なレーザー核融合施設では,大型でフラッシュランプ励起のレーザ装置により,入力エネルギーに対し出力エネルギーを100倍程度に大きくする高利得達成に向けた大規模な実証実験が行なわれているが,レーザー媒質を冷やす時間が必要なため1日数回のレーザ照射に限られている。
レーザー核融合の実用化には高繰り返しで核融合反応を起こし,連続的にエネルギーを取り出す必要があると考えられており,同社は,1MJのパルスレーザを10Hzで核融合燃料に照射する技術の確立を目指している。同社は今後,250Jのパルスレーザを10Hzで出力する技術の確立を進めるとしている。