東北大学の研究グループは,熱可塑性材料に熱と張力を加えて任意の断面デザインのファイバーを量産する「熱延伸法」により,「バイポーラ電気化学顕微鏡(BEM)」電極素子の量産化に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
近年開発されているBEMは,高密度な電極基板と光シグナルによって分子濃度分布を高解像度で可視化することができる。
しかし,歴史の浅いこの顕微鏡の電極基板を安定して量産する方法は確立されておらず,基礎研究や実用化のボトルネックとなっていた。さらに原理上の解像度は「光の回折限界」が上限となる課題があった。
研究ではBEM電極素子の量産法の確立を目指した。BEM電極素子には,絶縁体材料を複数のマイクロ-ナノサイズの導体材料が垂直に貫通した構造が求められる。これまでの報告されてきたBEMの電極素子は,多孔膜に金属を析出させる方法やリソグラフィー技術を用いることで作製されてきたが,いずれも作製再現性が低いことや工程の複雑さといった課題があった。
そこで,熱可塑性材料に熱と張力を加え,任意の断面デザインの電極ファイバーを引き伸ばして作製することができる「熱延伸法(Thermal drawing)」に着目。内部に104点のカーボン電極材料を含んだ「型」を引き伸ばすことで,ファイバー状のBEM電極素子の作製に成功した。
この手法で一度に作製可能なファイバーは数100mにおよぶといい,任意の点で切断することで20,000個以上のBEM電極素子の回収が可能だという。
さらに,作製した電極素子を再び熱延伸することで,前例のない,先端がすぼまった形状のテーパードBEM電極素子の作製に成功した。これによって,すぼまった先端で小さな領域の分子濃度を大きく拡大した発光イメージとして観察する「拡大イメージング」の原理実証に成功した(拡大率4.7倍)。
この拡大イメージングは,光をシグナルとして用いるイメージングシステムの原理上の解像度の限界となっていた「光の回折限界」を克服し得る手法として期待できるという。
今後はこの熱延伸法を用いた量産技術により,生体分子イメージングのためのさらなる基礎検討が加速することが期待できる。研究グループは,電極材料の最適化を通して光学限界を超えた超高解像度イメージングを実現することで,生命科学研究を加速させる強力な顕微鏡システムとなることが期待できるとしている。