浜松ホトニクスは,独自のMEMS技術と光学実装技術を活用し,従来製品の約1/150となる世界最小サイズの波長掃引量子カスケードレーザー(Quantum Cascade Laser:QCL)を開発した(ニュースリリース)。
火山の噴火予知では,火山ガス中の二酸化硫黄(SO2)や硫化水素(H2S)などをモニタリングするため,電極でガスを検知する電気化学式センサーによる分析装置を火口付近に設置してリアルタイムで分析している。
しかし電極が火山ガスと接するため寿命が短く性能が劣化しやすいという課題があった。一方,寿命が長い全光学式の分析装置は光源のサイズが大きく装置が大型になってしまうため,火口付近への設置が難しいという問題があった。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「IoT社会実現のための革新的センシング技術開発」で,浜松ホトニクスと産業技術総合研究所(産総研)は2020年から,全光学式で小型・高感度、かつ高いメンテナンス性を備えた次世代火山ガスモニタリングシステムの実現に向けた研究開発に取り組んでいる。
今回,浜松ホトニクスは独自のMEMS技術により,波長掃引QCLの体積の大部分を占めるMEMS回折格子の設計を抜本的に見直すことで,従来と比べ約1/10サイズとなるMEMS回折格子を開発した。
また,小型の磁石を採用し配置を工夫することで不要なスペースを削減するとともに,独自の光学実装技術により構成部品を0.1μm単位で高精度に組み立て,従来製品と比較し約1/150サイズとなる世界最小の波長掃引QCLを実現した。
量子構造設計技術による新開発のQCL素子を搭載することで,中赤外光をSO2やH2Sに吸収されやすい波長7~8μmの範囲で掃引し出力することが可能。同時に,この範囲から特定の波長を選択して出力できる波長可変型QCLも開発した。
これを産総研が開発した駆動システムと組み合わせることにより,波長掃引QCLの高速な波長掃引を実現できる。20ミリ秒以下で中赤外光の連続スペクトルを取得することができ,時間的に高速に変化する現象を分析することが可能となった。
NEDO,浜松ホトニクス,産総研は,今回開発した波長掃引QCLを搭載した小型で高感度,かつ高いメンテナンス性を備えた次世代火山ガスモニタリングシステムを構築する。また,浜松ホトニクスは開発品と駆動回路や同社の光検出器を組み合わせたモジュール製品を2022年度内に発売するとしている。