早大,光熱効果により高速で動く結晶を開発

早稲田大学の研究グループは,光熱効果によって高速で動く新たな結晶の開発と,結晶が高速で屈曲する機構の解明に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

エネルギーを動きに変換するメカニカル材料は,光や熱で駆動する軽くて柔らかいアクチュエータや人工筋肉,ソフトロボットへの応用が期待されている。メカニカル材料を構成する結晶はこれまで,硬く割れやすいというイメージがあったが,2007年にジアリールエテン結晶が光によって曲がることが報告され,そのイメージを覆した。

その応用には,自由に動く多種多様な結晶が必要になるが,従来の結晶の多くは光異性化に基づいており,光異性化はごく限られた結晶でしか起きない,厚い結晶は屈曲しない,動きが遅い(1秒以上),光は紫外光にほぼ限定されるなどの問題点があった。

研究グループは,光熱効果によって厚い結晶が高速で屈曲することを発見しているが,屈曲機構については解明できていなかった。光熱効果は,物質の光励起により熱が発生する非常に速い現象で,光を吸収するほとんど全ての物質は固有の光熱効果を示す。このため,光熱効果を用いればあらゆる結晶をあらゆる光で高速で動かせる可能性がある。

そこで,光熱効果によって高速で動く新たな結晶の開発と屈曲機構の解明に挑戦した。光異性化が比較的速いo-アミノサリチリデンアニリンの厚い結晶に紫外光を当てると,光熱効果により20ミリ秒の高速で屈曲し,可視光でも高速で屈曲した。結晶表面の温度は11℃上昇した。最終的に,紫外パルス光を1ミリ秒ごとに照射することで,500Hzの高速屈曲を達成した。

次に,この屈曲は,結晶表面付近で発生した光熱エネルギーが熱伝導して,厚さ方向に非定常な温度勾配が生じることで起きると考え,この温度勾配を1次元の非定常熱伝導方程式に基づいて計算して結晶内の温度分布を求めた。この温度分布をもとに屈曲角をシミュレーションしたところ,実際の屈曲を精度良く再現でき,屈曲機構を解明することができた。

結晶に光を当てたときに発生する熱を見積もるため,フェムト秒過渡吸収分光法を用いて光を吸収した分子の反応挙動を明らかにし,さらに結晶の熱拡散率も測定し,結晶内の温度分布と屈曲角をシミュレーションするプログラムを作成した。

光熱効果は光を吸収するほとんど全ての結晶で起きるため,あらゆる結晶をあらゆる光で高速で動かせる可能性がある。今回,結晶のサイズや光の照射条件から屈曲挙動をシミュレーションできるようになったため,実際に測定しなくても,動きのデザイン・設計ができるようになったとしている。

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