京都大学の研究グループは,3次元ナノアンテナを作製する新手法の開発に成功した。この技術を発光素子に応用すると,発光をより明るくすることができる(ニュースリリース)。
ナノサイズの金属や誘電体粒子を平面基板上に周期的に並べた“ナノアンテナ”は,光を平面内に強く閉じ込めたり,特定の方向へ集めたりする性質がある。
研究グループはこれまで,黄色蛍光体基板の上にナノアンテナを作製し,青色レーザーと組み合わせて,指向性白色光源を設計・試作した。この試作品は,蛍光体から放たれる黄色光が基板表面に作製されたナノアンテナの作用を受けて前方方向に集められ,青色レーザー光と均一に混ざることで,前方方向へ指向性を持った白色光を生成する。さらに2021年1月,多くの材料に自由に貼れて機能を発揮する“ナノアンテナシール”も開発した。
もしナノアンテナ構造を3次元に拡張できれば,さらに自由な光制御が可能になる。しかし,ナノアンテナは高度な複数の工程を経て作製するため,すべての工程に適合する材質や形状に厳しい制限がある。特に基板は平坦でなければならず,ナノアンテナの上に新たなナノアンテナを重ねて作製するのは困難だった。
今回研究グループは,ナノアンテナシールを使ってこの問題を解決し,簡単に積層3次元ナノアンテナを得ることを目的とした。さらにコンセプトの実証実験として,ナノアンテナ2層の間に発光層を挟み,2層の発光制御効果が同時に得られることを示した。
ナノアンテナシールは柔軟で適度な接着性を持つため,基板上に作ったナノアンテナやシール同士で密着性良く貼り合わせ,簡単に積層ナノアンテナが得られる。今回は積層ナノアンテナによる発光制御効果を明確に示すため,発光層を2枚のナノアンテナではさんだサンドイッチ構造を作製した。
まず石英ガラス基板上に青色光に共鳴するナノアンテナを作製し,そこに発光物質として青色光を吸収し赤色を放つ色素を分散させた発光層を塗布した。最後に赤色光に共鳴するナノアンテナシールを密着させ試料を完成した。
このサンドイッチ試料に青色光を照射すると,まず青色光に共鳴するナノアンテナの効果で発光層が強く青色光を吸収する。色素からの発光はさらに赤色光と共鳴するナノアンテナにより指向性をもって放たれる。すなわち,サンドイッチ試料からの発光は,それぞれのナノアンテナ効果が掛け合わされた効果を受けることが実証できたという。
今回の実験はまだ多くの改善の余地があるという。研究グループは今後,積層構造の最適化を通じた発光増強効果の最大化を目指すとしている。