東京農工大学の研究グループは,テラヘルツ電磁波で動作する高屈折率・無反射な新材料を実現した(ニュースリリース)。
6G(Beyond 5G)に向けて,テラヘルツ電磁波の利用が期待されている。高温の熱源から捨て続けられている熱放射も赤外域に位置するテラヘルツ電磁波なので,空中に放射されたテラヘルツ電磁波の方向や形を操ることができれば,将来の情報通信や熱マネジメントに貢献できる。
これまでテラヘルツ電磁波を制御するためのレンズなどに用いられている自然界の材料は,屈折率などの性質が限られるという問題があった。
研究は,高屈折率・無反射な新材料を,電波法で電波として定義される最上限の3THzで実現した。この新材料は電磁波の波長に対して微小なサイズの構造体のメタアトムを,原子や分子に見立てて配列することで,自然界には存在しない屈折率などの材料の性質を実現した人工構造材料(メタサーフェス)となる。
スーパーインクジェットプリンタと呼ばれる微細な構造を描ける印刷技術を用いて,厚さ5μmのポリイミドフィルムの6mm角範囲の表と裏の両面に,80,036対のカット金属ワイヤーからなるメタアトムを銀ペーストインクで作製した。
作製した高屈折率・無反射なメタサーフェスをテラヘルツ時間領域分光法で測定し,3THzの電磁波を照射した際に,屈折率5.9,反射1.3%で振舞うことを確認したという。
ポリイミドフィルムの表と裏の両面のメタアトムにより,メタサーフェスの比誘電率と比透磁率が同じ周波数で高い値となるため,高屈折率でありながら無反射な性質の材料を実現した。さらに,金や銅などの導電率の実部が10の7乗オーダーの金属に比べ,導電率の実部が2桁低い銀ペーストインクを用いても,高屈折率・無反射な材料の性質を実現できることを明らかにした。
他にもメタアトムの寸法の制御だけでなく,金属の導電率の実部と虚部の値を調整することで,高屈折率・無反射な材料の性質を設計できることも示唆した。
電波法で電波として定義される最上限の3THzで高屈折率・無反射なメタサーフェスを実現したことで,6G以降も見据えたスマートフォンやタブレットに用いられる材料や光学部品としての応用が期待できる。
さらに,今回の高屈折率・無反射なメタサーフェスを,厚さ100nmオーダーの基板で作製し,数10THz以上まで高周波化できれば,製鋼スラブなどから排出される熱放射を特定の方向に集中させることで,熱エネルギーを回収しやすいようにするなど熱マネジメントへの応用も期待されるとしている。