岡山大学は,重い電子系の超伝導物質において,「局在-遍歴転移」の観測に成功した。さらに,この転移によって不純物散乱に強い超伝導が出現することを突き止めた(ニュースリリース)。
セリウム(Ce)など希土類元素を含む化合物に「重い電子系」と呼ばれる物質群があり,1979年に初めてCeCu2Si2という物質で超伝導が発見されて以来,40年を超える歴史がある。
重い電子系の特徴として,Ceの電子が局在(磁性)と遍歴(超伝導)という2つの性質を持ち,それらは「圧力」を使って自由自在に人工制御出来るのが実験の大きな利点となる。1986年に銅酸化物高温超伝導体が発見され注目を集めたが,その超伝導は重い電子系とよく似たものだった。
銅酸化物は化合物の性質上,元素置換が必須であり結晶の「乱れ」の影響が排除できない。一方で重い電子系は“クリーン”な圧力で研究ができるので,銅酸化物の原型物質として高温超伝導発現機構の研究が続けられてきた。
Ceの電子はCeイオンの位置に局在する性質が強く,電子スピンがお互いの向きを逆さまに並ぼうとする(反強磁性)。この状態で結晶を圧縮すると,Ceの電子と自由電子との重なりが大きくなり,遍歴性を増す。
その結果として,「重い電子」と呼ばれる状態が作りだされる。それに伴って,フェルミ面の大きさが変わる。この変化,「局在-遍歴転移」が超伝導の鍵を握る。しかし,観測がとても難しいため,どの時点で「局在-遍歴転移」が起こるかが研究の主題の一つとなっていた。
本研究グループは、典型的な重い電子系反強磁性超伝導体CeRh0.5Ir0.5In5において,極低温高圧下の核四重極共鳴実験を詳細に行なった。その結果,圧力で反強磁性が消失する量子臨界点の前にCeの電子の局在-遍歴転移が起きていることを突き止めた。
さらに,超伝導について詳しく調べると,この物質でRhをIrで元素置換したことによる不純物散乱の影響が顕著にあらわれているにも関わらず,超伝導転移温度が想定より下がらない(不純物散乱に負けていない)ことがわかった。
このことから,局在-遍歴転移と量子臨界点の協働により,今までは理論的にのみ議論されていた「不純物散乱に強い超伝導」状態(奇周波数p波超伝導)が出現していることを明らかにした。
持続可能な社会の実現には,室温超伝導実現が大きな課題となる。今回の成果は,重い電子系超伝導発現機構を考える上で重要な手がかりを与えるのはもちろんのこと,今後の高温超伝導物質開発に生かされることが期待されるとしている。