東北大学は,単分子蛍光顕微鏡に,強力なレーザー光による臨界角の全反射照明とカメラの1次元検出を組み合わせることで,サブミリ秒の時間分解能を達成した(ニュースリリース)。
DNA結合タンパク質は,細胞内にあるDNAの中から標的部位を探索し,そこに結合し,機能を発揮している。この標的部位への結合には,①DNAに沿ってスライディングする,②DNA上でジャンプする,③2本のDNA間を移動するなどの探索運動が考えられるという。
単分子蛍光顕微鏡を用いて,蛍光色素を修飾したタンパク質のDNA 上での動きを追跡する方法では,がん抑制に関与するDNA結合タンパク質p53の場合,DNA上のスライディング運動やDNA間移動がすでに明らかにされている。
しかし,計測の時間分解能(例えば33ms)内に起こる素早い運動を計測する方法がなかった。
研究グループは,まず,DNA・蛋白質の複合系に特化した単分子蛍光顕微鏡の時間分解能の向上に取り組んだ。DNAをガラス基板にその末端を介して固定し,そのDNAに結合するタンパク質を入射レーザー光で照明し,タンパク質から出る蛍光をカメラで検出する。
実際には,2次元画像の中に,複数のDNAに結合したタンパク質が蛍光スポットとして検出される。研究グループは,①短い時間でも十分な蛍光のフォトン数を得られるように入射光強度を高くし,②検出光路にスリットを導入し,検出されるDNAを1本に絞り,③カメラによる検出を2次元から1次元に減らすことで,時間分解能の向上を試みた。
続いて,ガラス基盤から少し離れた位置にあるDNAを適切に照明する方法を検討し,対物レンズに入射光を全反射照明が起こる角度(臨界角)で導入することが最適であることを突き止めた。
改良した蛍光顕微鏡と臨界角全反射照明を用いて,500μsの時間分解能での計測が可能となった。これまで,DNA結合タンパク質の計測の時間分解能は8msが最高だった。
この方法を用いて,がん抑制タンパク質p53の素早い運動の計測を行なったところ,数ミリ秒の短い結合の存在が明らかとなった。これは,p53がDNAへの結合時に過渡的に形成する中間体であると考えられるという。
次に,DNA上でのp53の動きを追跡し,DNA上でのジャンプ運動を明らかにするとともに,DNA結合ドメインをホップさせながら,DNAのリン酸骨格に沿わずに移動する可能性も明らかにした。
研究グループは提案したサブミリ秒分解単分子計測法が,様々なDNA結合タンパク質の機能解析に役立つとしている。