理化学研究所(理研)の研究グループは,一波長励起の増幅器を用いて,「サブサイクル光」と呼ばれる光電場が振動する周期よりも短い時間幅の極超短パルスレーザー光を簡便に増幅する新たな手法を開発した(ニュースリリース)。
サブサイクル光は光電場波形の「偏り」が大きいため,電場波形に依存した物質の変化を観測しやすいという特長がある。物質の超高速応答を扱う研究では,観測手段として非線形光学効果を利用する場合が多いため,より強度の高いサブサイクル光が求められている。
これまでの強度の高いサブサイクル光を得るための増幅手法は,複数の異なる波長域のレーザー増幅器を異なる波長のレーザーで励起して並列に動作させ,各々の増幅器からの出力パルス光を重ね合わせるという非常に複雑なものだった。一方,一波長励起の増幅器による簡便な手法を用いた先行研究では,レーザー電場振動周期の2倍を切る程度(サブ2サイクル)のパルス幅が限界で,サブサイクルには到達していなかった。
今回,研究グループは,非線形光学結晶BBOを用いたOPAにおいて,励起光の波長を708nmにすることで,利得周波数帯域幅を1オクターブ以上に広げることに成功した。増幅した広帯域光を周波数に応じて重ね合わせる(分散補償)ために,波長分割と合成のための干渉計を二つの分散制御装置と組み合わせた。
その結果,光周波数130~300THz(波長0.9~2.4μm)にわたる短波長赤外領域のレーザー光の増幅と分散制御が可能になった。さらに,パルス幅が4.3fsであることから,得られた出力光がサブサイクル光であることを確認した。
また,シグナル光のパルスエネルギーは32μJであり,この種の増幅システムとしてはそれ程大きな値ではないものの,固体からの高調波発生などの非線形光学効果を利用した応用実験が可能。
光電場波形は,+方向の振幅の最大値は1であるのに対し,+方向の振幅の最小値は-0.7程度。このような電場の形の「偏り」は通常のパルス光ではほとんど無視できる値であり,サブサイクル光の大きな特徴の一つだという。この特徴を,高次高調波発生などの高次非線形光学効果や偏光制御と組み合わせて利用することで,物質の新たな超高速応答現象を探索・解明できるとしている。