東大ら,4つの分子振動からSRS信号を取得

東京大学は,科学技術振興機構,名古屋大学,中央大学,がん研究所,筑波大学,理化学研究所,台湾国立交通大学と,細胞内生体分子を光学的に検出する誘導ラマン散乱(SRS)顕微法において,高速波長切り替えの可能なレーザー光源を適用することで,4つの分子振動周波数におけるSRS信号を高速に取得する技術を開発した(ニュースリリース)。

さまざまな分野において,多数の多様な細胞ひとつひとつの化学的・形態的特徴を計測することが求められている。そのための技術として,流体中の細胞を高速撮像するイメージング・フローサイトメトリーが注目されているが,蛍光標識に伴う細胞毒性などの課題がある。

細胞を蛍光標識せず,細胞の化学的・形態的情報を得る手法として,誘導ラマン散乱(SRS)顕微法が知られている。しかし,SRS顕微法は複数の分子を検出するためにレーザーの波長を切り替える必要があり,その間に細胞が動いてしまうと計測ができないという問題があった。

今回,SRS顕微法を高速性を保ちつつ多色化することで,細胞内の生体分子の複数周波数の分子振動を直接光で計測して画像化する,SRSイメージング・フローサイトメトリーを開発した。

この技術は,高速波長切り替え可能なパルス光(ストークス光)と,固定波長のパルス光(ポンプ光)を同期させて使用する。ストークス光とポンプ光の出力光を合波し,走査ミラーによってビーム走査を行なったのちに,マイクロ流体デバイス中のマイクロ流路内部に集光する。

また,細胞をマイクロ流路に導入し,ピエゾ素子によって音響定在波を発生させることで細胞位置を流路中心に収束させる。細胞が集光部を通過する際,集光点に存在する生体分子の分子振動周波数が,ポンプ光とストークス光の光周波数の差と等しいとき,SRSが生じ,ポンプ光に強度変化が生じる。

この強度変化を検出することで,集光点に所望の分子がどれだけ存在するかを計測する。高速波長切替えストークス光を用いることで,210ナノ秒の短時間に4つの分子振動周波数におけるSRS信号を取得することが可能となった。この信号取得速度は,従来の3色以上のSRS顕微鏡と比較して10倍以上高速であり,波長切り替え時間内における細胞の動きを無視できるとともに,細胞の画像情報を取得することができる。

この細胞画像に対して深層学習を適用することで,蛍光標識せずに藻類細胞,血液細胞,がん細胞を分類することが可能になる。さらに研究グループは,膨大な数の細胞のひとつひとつの細胞に含まれる生体分子の無標識画像化が可能になり,物質生産効率の高い細胞のスクリーニング,再生医療に向けた細胞品質評価などへの応用展開が期待できるとしている。

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