東工大,究極の対物レンズの設計に成功

東京工業大学の研究グループは,高い開口数でありながらすべての収差を補正した対物鏡「虎藤鏡=TORA-FUJI mirror」の設計に成功した(ニュースリリース)。

研究グループはこれまで,極低温に冷却した試料の蛍光顕微鏡(クライオ蛍光顕微鏡)を独自開発し,色素1分子の三次元位置を1nmの空間精度で決定することに成功している。

クライオ蛍光顕微鏡は,サブオングストロームの機械的安定性と高い解像度の両立により高空間精度の観察を可能にした。これは極低温で動作する反射型対物レンズ「クライオ対物鏡」によって実現した。クライオ対物鏡は極低温に冷やしても室温と変わらない性能を発揮するデザインになっており,試料とクライオ対物鏡を剛性が高い一体成形のホルダーに取り付け,共に超流動ヘリウム中に浸して観察する。

このような一体配置を用いることで,サブオングストロームの機械的安定性を確保し,さらに,クライオ対物鏡の光学性能(開口数)を極限まで高めることで,高い解像度を実現している。

今回開発したクライオ対物鏡は球面鏡と非球面鏡からなる反射型の対物レンズ。球面鏡と非球面鏡を1個の石英ガラスの表面にアルミをコートすることで一体成形しており,1.優れた耐環境性能(極低温から室温までの広い温度領域および強磁場での使用)と2.完全な色消し性能を実現している。

さらに,非球面鏡を用いることで設計の幅が広がり,3.高開口数を維持しながら,4.全ての単色収差を補正し,5.広視野を確保している。一世代前の鏡では4と5が課題として残っていたが,グループは設計を一からやり直し,1~5までのすべての要件を満たす対物鏡の設計に成功した。

具体的には,優れた耐環境性能(極低温~室温までのあらゆる温度,強磁場),高い開口数(0.93),広い視野(視野直径72μm),すべての収差(単色収差,色収差)の補正を並立させた極低温用反射対物レンズの設計に成功した。

この鏡は非球面と球面を用いた複雑な構造であるのに加えて研磨公差が厳しく,製作は難航しているが,試作と再設計を繰り返すことで完成に近づいているという。

研究グループでは近い将来,この対物鏡によって,前人未踏の生命現象の分子レベル可視化が実現すると考えている。また,そこから得られるナノレベル空間情報は,これまで人類が蓄積してきた膨大な生命科学の情報をつなげる役割を果たし,それによって生物に対する理解が一気に進み,多くの生命の謎が解けてくるはずだとしている。

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