国立環境研究所(NIES)では,国内5ケ所で観測している紫外線データから,健康な生活を送るうえで必要なビタミンDを生成するための日光照射時間を,準リアルタイムにウェブサイトで公開してきた。この研究に関する論文が,最近米国の国際学術雑誌(Photochemistry and Photobiology)に掲載され,その有効性が認められた(ニュースリリース)。
体内に豊富に存在するコレステロールはプロビタミンDに代謝され,皮膚内に透過した紫外線によってビタミンDの前駆体のプレビタミンDへと変性する。その生成量は紫外線の波長スペクトルに依存し,また,紫外線照射量にしたがって増加する。生成されたプレビタミンDは体内で種々の代謝を繰り返し,最終的には腎臓の働きで活性化し,1,25-ジヒドロキシビタミンDとして体内を循環し,ビタミンDとしての効力を発揮する。
一方,皮膚に紅斑を発生させる有害な紫外線の照射を繰り返すことは皮膚疾患をもたらす。この紫外線を紅斑紫外線といい,その量はビタミンD生成紫外線とは若干異なった紫外線の波長スペクトルに依存する。皮膚に紅斑を生じさせる紫外線量の最小値を「最小紅斑紫外線量(Minimal Erythema Dose:MED)」というが,MEDを超えない程度に紫外線を照射することによって,適切にビタミンDを生成することができると考えられている。
皮膚内への紫外線の透過を妨げるメラニン色素などは,スキンタイプによってその量が異なり,有効なビタミンD生成紫外線を減衰させ,その生成を妨げる。一方,その皮膚は,同時に有害紫外線も体内に入りこむことを防ぎ,人体を有害紫外線から守る役割を演じている。皮膚は相矛盾する作用をしていることになるが,その両方の兼ね合いによって,適切な日光照射時間が決まる。
研究では,紫外線の相反する影響に対する最善の対応を把握する目的ですすめ,その双方を日光照射時間という数値で求めた結果を公表してきた。今回,ビタミンDデータ提供地点をこれまでの5か所から全国10か所に拡張し,観測から1時間以内にその地点における適切な日光照射時間を国立環境研究所のウェブサイトで公表した。なお,この際の計算で用いられた種々の数値などは,国際機関の報告や,信頼できる研究成果・資料に基づくものを使用した。
海外でも多くの人々がビタミンD不足に陥っており,ビタミンDの食物への添加,サプリメントからの摂取が図られている。さらに適度な日光照射の必要性を指摘する多くの研究がある。一方,国内でも日本人の多くはビタミンD不足に陥っていることが報告されている。ビタミンDによる疾患等に関係する諸機関,または公共団体は,日光照射の必要性を推奨しながらも,その詳細な方策については大雑把にしか明らかにしていない。
今回の研究の成果は,ビタミンD不足による種々の疾患を防ぐ方法の一つとして,適切な日光照射時間の目安を提供するもの。そのことにより適切な屋外活動も期待され,頭蓋ろう,くる病,さらに将来の骨粗鬆症などの骨疾患の軽減につながることが期待されるとしている。