名大ら,有機化合物で2つの電子状態が共存する相転移現象を発見

名古屋大学大学院理学研究科の機能性物質物性研究グループ,高輝度光科学研究センター,東京大学,東北大学の共同研究により,有機分子でできた化合物において,相転移温度である-200℃から絶対零度(約-273℃)近くという広い範囲で,あたかも水と氷という2つの異なる状態が共存するように,2つの異なる電子状態が1つの試料中で空間的に住み分けて存在することを発見した。通常,相転移が起こると,試料中の電子状態は空間的に均一であると考えられてきたことから,このような2つの電子状態が共存した相転移は,従来の常識を覆す現象といえる。

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有機分子でできた結晶(固相)中で,2つの異なる電子の状態が空間的に住み分けて存在している様子の概念図

今回研究グループは,上記の現象を,大型放射光施設SPring-8にて実験を行ない,有機分子meso-DMBEDT-TTFでできた化合物で確認した。具体的には,高純度のβ-(meso-DMBEDT-TTF)2PF6単結晶に対し,SPring-8のビームラインBL43IRの高輝度赤外線源によって達成した10μm程度の高空間分解能での赤外イメージング分光技術を用いて,この有機化合物の局所的な電子の状態が,相転移温度以下で試料内部において場所ごとに大きく異なっているということを明らかにした。

今回報告された現象は,空間的に均一な状態を考える従来の相転移の概念とは本質的に異なるもの。2つの異なる状態が空間的に不均一に存在するという今回の結果は,それら2つの状態がほぼ同程度のエネルギーを持っているということを意味する。

この現象は,超伝導や反強磁性などといった多様な電子状態を示す有機化合物の特徴を反映した結果であると考えられ,逆に他の有機化合物においても同様の相転移現象が起きている可能性がある。また,今回観測された状況は,いわば2つの状態が拮抗している状況であり,電場などといった外場に対して極めて敏感に変化し,試料のマクロな電気抵抗率などが巨大電場応答を示す可能性もある。

実際に今回の物質で,いわゆるオームの法則に従わない,巨大な非線形伝導現象なども観測されており,不均一な電子状態を利用・制御した巨大非線形素子など,有機エレクトロニクスという新しい概念に基づいた研究の展開が期待される。

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