月刊OPTRONICS 特集序文公開

光ニューロモルフィック計算のセンシング応用

1.はじめに

  

生物は極めて多くの感覚器官(センサー)と脳(プロセッサー)がシームレスに統合されたシステムであり,それらが一体となり膨大な情報を効率的に処理して,高度な思考や行動を可能にしている。興味深いのは,脳だけが情報処理を担っているわけではない点である。例えば,脊椎動物の目の網膜では,視覚情報の重要な特徴を抽出するための処理も行われている。一方,聴覚に関しては,内耳にある基底膜にて音波による振動の周波数選別を行い,外有毛細胞では微弱信号に有効に作用する非線形な増幅を行なってから脳に信号が伝えられている。生物は,このような感覚器近傍での処理により脳内処理のコストを下げて,効率的,頑強,そして低遅延な処理システムを実現していると考えられる。

 

上述の例のような感覚器官近傍の前処理戦略には習うべき点が多くあるだろう。昨今では,膨大の数のセンサーノードが配置され,大量のデータが収集可能となっているので,その情報量の過大さゆえに,中央集権型の情報処理だけでは対処できない場合がでてきている。これに関連して,最近ではインセンサーまたはニアセンサーコンピューティングという計算パラダイムが注目を集めている。これはセンサー内またはその近傍で膨大なデータをあらかじめ処理するコンピューティングであり,時間遅延が問題となる場面において有効な手段として期待されている。

 

一方,近年では光を用いたコンピューティング技術が高度に発達してきた。光演算による広帯域・高効率な並列分散処理は,センシングデータの処理においても有効だろう。特に,光ニューラルネット(Neural Network:NN)に代表される光ニューロモルフィック計算技術は,光のアナログ情報処理をベースにしているので,アナログな物理世界と情報空間のインターフェースに位置するセンサー技術と非常に相性がよいだろう。一方で,光技術はセンシング・計測分野においても重要な役割を担っている。もし光センシング技術と光演算技術をシームレスに接続できれば,光情報を光のまま処理できる可能性がある。このとき,光演算技術は符号化・データ圧縮・特徴量抽出などの前処理に特化し,光電変換ボトルネックを最小かつ後段プロセッサの処理負荷を低減させて,システム全体のエネルギー消費と遅延を大幅に削減できる可能性がある。また,先端的な光センシング技術と光演算との融合は,新たな付加的機能を生む可能性もある。

 

本稿では,光センシングのための光NN型(または脳型)情報処理に関して,筆者の研究例を中心に紹介する。

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