オプティカルコーティング(2)

図5 フレネル反射はあらゆる材料の境界面で起こる。反射光線の一部は,別の境界面に到達する度に更なるフレネル反射に遭遇する
図5 フレネル反射はあらゆる材料の境界面で起こる。反射光線の一部は,別の境界面に到達する度に更なるフレネル反射に遭遇する

4. 反射防止コーティング
光が空気からコーティングしていないガラス基板を通過する時,フレネル反射によって,光の約4%が各境界面で反射される。その結果,入射光の92%だけがガラスを透過することになり,レーザーオプティクスアプリケーションではこれがきわめて弊害になる(図5)。レーザー光が多く反射されると,スループットが減少して,レーザー誘起損傷につながることがあるからだ。

システムのスループットを向上させ,光が反射してシステム内を逆方向に戻る危険性を低減し,またゴースト像の発生を低減するため,反射防止(AR)コーティングが光学面に施される。後方反射となるフレネル反射は,レーザーキャビティ内に入射してしまう不要な光を許すことで,レーザーシステムの動作を不安定にもさせる。

ARコーティングは,複数枚の透過型光学部品で構成されたシステムにとりわけ重要である。微弱光システムの多くは,光の効率的な使用を可能にするARコート付きオプティクスが使用されている。システムの多くに,光を効率的に利用するためのARコーティングを施したオプティクスが実装されている。

図6 どのコーティング層の屈折率と厚さも,あらゆる反射ビーム間で減殺的干渉(Destructive Interference)を引き起こすために注意深く制御される
図6 どのコーティング層の屈折率と厚さも,あらゆる反射ビーム間で減殺的干渉(Destructive Interference)を引き起こすために注意深く制御される

ARコーティングは,薄膜層の上側境界面と下側境界面で反射されるビーム間の相対的位相シフトが180°になるようデザインされている。反射された2つのビーム間で減殺的干渉(Destructive Interference)が生じ,ビームが表面から出る前に2つのビーム同士が打ち消し合う(図6)。

オプティカルコーティングの光学的な膜厚はλ/4の奇数倍になる必要があり,この時のλは設計波長,即ち反射されたビーム間でλ/2の光路差を実現し,ピーク性能が得られるように最適化された波長になる。これが実現すると,ビームが打ち消し合う。反射されたビーム同士が完全に打ち消し合うのに必要な薄膜の屈折率(nf)は,入射媒質の屈折率(n0)と基板の屈折率(ns)を用いて次式のように求められる。

図7 266 nmで最大透過率が得られるように設計したレーザー単波長用Vコート
図7 266 nmで最大透過率が得られるように設計したレーザー単波長用Vコート

式(8) ⑻

反射防止用のVコートは,所定の設計波長(DWL)を中心とする非常に狭い波長域内で透過率を向上させるようにデザインされたARコーティングの一種である。このコーティングタイプは「Vコート」と呼ばれる。なぜなら,透過率対波長の曲線がDWLで最小となる「V」字形になるからだ。

Vコートは,単一周波数や狭帯域なレーザー,或いは半値全幅(FWHM)の狭い光源を用いる時,最大透過率を得るのに理想的になる。Vコートは一般的にDWLで0.25%未満の反射率が得られる。しかしながら,このコーティングの反射率曲線は局所的に見るとほぼ放物線状になっていて,DWLから少し外れるだけでも反射率が無視できない程度に大きくなる(図7)。表1は,当社標準のレーザー用Vコートの反射率と保証レーザー誘起損傷閾値(LIDT)を表わす。

表1 当社標準のレーザー単波長用Vコートの反射率スペックとレーザー誘起損傷閾保証値–ご要望に応じて波長のカスタマイズにも対応
表1 当社標準のレーザー単波長用Vコートの反射率スペックとレーザー誘起損傷閾保証値–ご要望に応じて波長のカスタマイズにも対応

光源の波長がDWLから外れると反射率が急速に増加するため,Vコートの付いた光学部品は,コーティングの意図するDWLそのものか,あるいはそれに非常に近い波長用となる。Vコートの興味深い特性に,反射率がその最適化したDWLとは異なるDWLの高調波(例えば,λ0/2やλ0/4)のところで極小値を取るために,透過率曲線の形状が半周期的になることがあげられる。Vコートは,通常2つのコーティング層から構成される。単純なVコートはλ/4の膜厚の単層で構成可能であるが,バンド幅の調整のため,あるいは適切な屈折率のコーティング材料が利用できない場合は,複数の層が必要になる。

多層膜コーティングは,様々な入射角に対応するが,構造がより複雑で,より広いバンド幅を持つ傾向がある。Vコート層の厚さが不正確だと,コーティングの反射率が増加し,DWLが変わる。エドモンド・オプティクスのVコートは,通常0.25%より十分に小さい最小反射率が得られるが,全ての標準VコートをDWLで<0.25%の反射率で規定している。これにより,コーティングの製造公差によって最小反射率が得られる波長がDWLから少しずれた場合でも,上述の規定した性能を得ることができる。

図8 EO標準の可視域用ARコーティング(波長1600 nmまでに対応した標準ARコーティングもあり)
図8 EO標準の可視域用ARコーティング(波長1600 nmまでに対応した標準ARコーティングもあり)

広帯域反射防止(BBAR)コーティングは,より広い波長帯にわたり透過率を改善するようデザインされている。このコーティングは,広帯域光源や複数の高調波を出射するレーザーに共通して用いられる。BBARコーティングは,Vコートほど低い反射率に通常ならないが,そのより広い透過帯からより万能なコーティングとなる。

レンズやウインドウを始めとする透過型光学部品への適用に加え,ARコーティングはレーザー結晶や非線形結晶の反射率の最小化にも用いられる。これは,空気と結晶の境界でフレネル反射が生じるからだ。当社標準のBBARコーティングのオプションの一部を図8に紹介する。




■Optical Coating 2
■Edmund Optics Japan Co., Ltd.

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