レーザー誘起損傷閾値(LIDT)⑹

図17 オプティクスの損傷確率の信頼区間−赤い面は損傷が生じるか否かの信頼区間の上限,対する青い面は信頼区間の下限を表す
図17 オプティクスの損傷確率の信頼区間−赤い面は損傷が生じるか否かの信頼区間の上限,対する青い面は信頼区間の下限を表す

セクション7:LIDTスペックの不確実性
LIDTのスペックは,ある値未満では損傷が起こらないことを絶対的に保証している訳ではない。LIDT値の不確実性は,試験レーザーのバラツキや損傷検出方法,またオプティクス上の欠陥のアンダーサンプリングに起因して起こる。この不確実性は,真の損傷確率を中心とし,フルエンスを関数にした信頼区間になる。


LIDT試験から得られるものは,実験データの二項分布に基づく確率関数になる。現実の設定で生じる損傷の信頼区間は,確率関数に依存するWilson score intervalと観測数を用いて決定することができる。Wilson score interval(w)は,次式により与えられる二項比率信頼区間になる:

式⑽ ⑽

nは各フルエンスレベルでのショット数,Pは実験的に決定された損傷の確率,zはプロビット,即ち標準正規分布のQUANTILE関数1)zは所望する信頼度レベルである。例えば,95%の信頼度レベルではz=1.96になる。


式⑽にある±の符号は,Wilson score intervalに対する2つの可能な値を表す。より高い方の値は,現実のアプリケーションにおいて損傷が生じるか否かの信頼区間の上限を,対するより低い方の値は,損傷の信頼区間の下限になる。wnPの両方の関数としてプロットすると,与えられた信頼度レベルで損傷する確率を決定するために有益な3Dプロットを作り出す(図17)。


図17では,フルエンスレベル当たり10ショットの時,損傷する確率が約±25%になることだけを知ることができる。10箇所で試験が行われ,その時の損傷がゼロであったなら,約25%の確率で損傷する最悪なケースは次の11番目になるかもしれない。±5%以内の損傷確率を知るためには,どのフルエンスレベルでも100回ショット以上が必要になる。フルエンスレベル毎のショット数の多さは,費用面で無理があるため,オプティクスの真の挙動を予測するにはシミュレーションを行うことが最適な選択肢となる。


参考文献
1)Wilson, Edwin B. “Probable Inference, the Law of Succession, and Statistical Inference.” Journal of the American Statistical Association, vol. 22, no. 158, 1927, pp. 209-212., doi:10.2307/2276774.




■Laser Induced Damage Threshold (LIDT)⑹
■Edmund Optics Japan Co., Ltd.

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