レーザー誘起損傷閾値(LIDT)⑶

図7 シングルショット試験のサンプルデータ
図7 シングルショット試験のサンプルデータ

セクション2:レーザー損傷閾値の試験
レーザー損傷試験は,本質的に破壊試験になる。試験対象のオプティクスは,あるレベルのレーザーフルエンスに晒され,一般的にはノマルスキータイプの微分干渉コントラスト(DIC)顕微鏡法を用いて検査される。その後フルエンスを増加させ,露光と検査の工程を繰り返す。この工程は,オプティクス上に損傷が観察されるまで続く。これ自体は概念的に単純な工程であるが,実際にはいくつかのレベルの複雑性が存在する。

ISO 21254によれば,被検オプティクス内で検出可能な変化はどれも「損傷」と見なされる。全ての試験で同じ損傷検出スキームが用いられているわけではなく,検査員毎に異なる信号対雑音の閾値を選定している可能性もあるため,損傷の評価方法次第で異なるLIDT値が生み出される可能性がある。またISOが「損傷」と定義する欠陥が必ずしも性能劣化を意味しているわけではないことも認識しておくことが重要である。なぜなら,それはアプリケーションに依存するからだ。

LIDT試験は,シングルショット試験かマルチショット試験のいずれかで規定される。「1-on-1テスト」としても知られるシングルショット試験は,一つの光学部品内の最低10か所の異なる場所に異なるレーザーフルエンスを用いてレーザー放射をシングルショットする。当該フルエンスでショットした場所の全体数に対する損傷した場所の数が,その特定フルエンスでの損傷確率となる。損傷確率がフルエンスの関数としてプロットされ,損傷確率が0%を維持する最大フルエンスがLIDT値となる(図7)。

「S-on-1テスト」としても知られるマルチショット試験は,シングルショット試験とは異なり,同一箇所に一連のレーザーショット,即ちパルスショットを実施する。試験箇所当たりの一般的なショット数(S)は,10〜1000回である。マルチショット試験は,オプティクスの現実世界の性能のより近い予測が行え,またLIDT試験員が「infant mortality realm」と呼ばれる現象を回避することを可能にする1)

試験箇所当たり1〜10ショットの場合,その試験結果は決定的なものとは言えず,高次の統計的変動が依然含まれる。これが,infant mortality realm と知られる試験箇所当たりのショット数領域になる。Sが10よりも高くなれば,試験結果はより決定的なものとなり,予測性がより高まる。したがって,試験箇所当たりのショット数が100程度あれば,オプティクスの長期性能を予測する上で十分な情報が集められたことになる。しかしながら,試験箇所当たりのショット数が増えると,LIDT試験自体に時間がかかり,試験費用がより高額になってしまう。

セクション3:損傷検出方法
試験結果は,損傷を評価するために用いられる検出方法次第で大きく異なるものになるかもしれない。しかしながら,どの方法を用いるかに関する業界内コンセンサスは現時点では存在しない。顕微鏡法は,損傷を識別するのに最も一般的に用いられているが,それ以外にも散乱光診断,プラズマスパークモニタリング,トポグラフィ解析を始めとする検出方法が存在する。

分干渉コントラスト顕微鏡法
ノマルスキー型微分干渉コントラスト(DIC)顕微鏡法は,ISO 21254に準じたレーザー損傷検出に最も一般的に用いられている顕微鏡法である。DIC顕微鏡法は,光の干渉を利用して透明サンプルの画像コントラストを強調し,他の方法では識別困難な欠陥の観察を可能にしている2)。試験の前後で撮られたオプティクスの画像から,人の判断または画像処理技法を用いて損傷が識別される。

人の判断が用いられる場合,検査員の主観による損傷識別となるため,試験結果が大きく変わることがあるのに対し,画像処理アルゴリズムを用いれば,ヒューマンエラーなしで損傷が検出される。しかしながら,画像処理の場合であっても,口径食や不均一照明,あるいはミスアライメントによって,誤検出を生み出すことがある。DIC顕微鏡法は,損傷の有無を確認するのに加え,欠陥の寸法も調べることができる。

図8 レーザー誘起損傷が生じた直後の散乱信号の劇的変化
図8 レーザー誘起損傷が生じた直後の散乱信号の劇的変化

散乱光診断
ISO 21254に定義されているもう別の一般的な検出法に散乱光診断がある。この方法は,ショット箇所からの散乱する光を用いてレーザー誘起損傷の存在や特性を判断する2)。散乱光診断では,ビームプローブ(He-Neレーザーがよく用いられる)でショット箇所を照明し,オプティクス上に損傷がある時はそこからの散乱光信号差がバックグラウンドノイズよりかなり大きくなる(図8)。プローブビーム自体は検出器に到達する前に遮断されるため,ショット箇所からの散乱光のみを検出できる。

図9 LIDT試験に向けた散乱光診断の典型的な構成
図9 LIDT試験に向けた散乱光診断の典型的な構成

散乱光診断に用いられる標準的構成では,検出器の立体角が大きくなるほど,感度のより高い測定になる(図9)。この方法の欠点の一つに,それがバックグラウンドノイズに大きく依存している点がある。この依存性は,複数回の測定実施と結果の平均化,検出器のゲインの増加,あるいはバックグラウンドノイズのフィルタリング処理によって克服することができる。

図10 LIDT試験に向けたプラズマスパークモニタリングの典型的な構成
図10 LIDT試験に向けたプラズマスパークモニタリングの典型的な構成

プラズマスパークモニタリング
プラズマスパークモニタリングは,レーザー損傷を検出するのに用いられる別の方法になる。レーザー誘起損傷は,非共振的な光学的破壊(プラズマスパークと呼ばれる)から光学面上にプラズマ生成という結果をもたらし,損傷箇所周辺にプラズマに起因した熱傷を引き起こす。プラズマスパークあるいはその熱傷を識別することは,オプティクスへの損傷の明確な識別となる2)

プラズマによる熱傷は,広い面に比較的均等に及ぶため,顕微鏡法や散乱光診断法を通してこれを識別することは困難になる。しかしながら,プラズマスパーク自体は,集光レンズを用いてプラズマスパークからの光を検出器上に結ばせることで,LIDT試験中に検出することができる(図10)。損傷を検出するには,試験レーザーからの散乱光をフィルタリングして取り除き,検出器の応答時間を一般的に約100 nsで最大ピークに達するプラズマスパークの持続時間よりも短く設定する必要がある。




参考文献
1)Johnson, Lawrence A. Laser Diode Burn-In and Reliability Testing. ILX Lightwave (2006)
2)Ristau, Detlev. Laser-Induced Damage in Optical Materials. CRC Press (2016)


■Laser Induced Damage Threshold (LIDT)⑶
■Edmund Optics Japan Co., Ltd.

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