─先生の最近の研究をご紹介していただけますか?
鉛を使用しないペロブスカイト材料の開発を進めています。この研究は5 年目を迎えていますが,文部科学省の科学研究補助金の採択を受けて取り組んでいます。エネルギー変換効率は20%を目標としていますが,現状では数%程度です。効率が高いものとしてはSnを含有したものがあり,非常に高い効率を達成している成果もあります。ただ,Snを使用すると性能は高まるのですが,大気中で不安定性があるという弱点があります。我々は安定性が高く,耐熱性にも優れるビスマス系のペロブスカイト材料の開発を行なっています。
─ペロブスカイトの安定性の話がありました。実用化のネックはやはりそこにあるのでしょうか?
水や酸素で劣化するという課題があります。エネルギー変換効率の実用性が見えてきた中で,研究の主軸は耐久性能の向上となっています。世界中がこの課題解決に取り組んでいますので,どこかで良い解決策が出てくると思っています。
ただし,耐久性能はどう考えてもシリコン系のような高いところまでは行かないと思っています。シリコン系では1,000℃以上の温度で作るので,非常に耐熱性が高いものがあります。それに比べると,ペロブスカイトは有機物が含有されていますから,温度は150℃ぐらいしかもちません。もしも,この耐久性がシリコン系に匹敵するようになれば,間違いなく世界はガラッと変わるでしょうね。薄くて曲げられるし,原料が安価であり,性能では雨の日や屋内の弱い光でも発電できるなど,利点が数多くあるからです。
─先生が無鉛化の研究をアプローチしているのは耐環境性能の向上にあるのでしょうか
はい。無鉛化ではもともと耐熱性能が高いので,問題はエネルギー変換効率の向上となります。EUの環境規制の一つにRoHS(特定有害物質使用制限)があります。このRoHSでは大型の固定式発電装置は規制の対象外となっています。しかしながら,家庭内など屋内で使用するものに対しては規制の対象となります。屋内照明で発電させて駆動するようなデバイス,例えばIoTやセンサーなど向けです。
実は,我々が開発を進めている無鉛化ペロブスカイト太陽電池は,屋内の照明に対してのエネルギー変換効率が高いもので10%くらい実現できています。現在,大手の時計メーカーと共同研究を行なっていて,時計にペロブスカイト太陽電池を採用する開発を進めています。電卓に薄膜シリコン太陽電池を搭載していたようなものですが,時計に対しては文字盤の上に置いて,「実はついているんですよ」程度に目立たない薄さで搭載することが考えられています。これが実用化に最も近いものになりそうです。