─ペロブスカイトに着目した理由を教えていただけますか?
私の研究室の学生だった小島陽広君がペロブスカイトを光る発光材料として研究していて,それを発電に使えないかと提案したのが発端です。彼は当時,東京工芸大学に所属していました。桐蔭横浜大学は共同研究というかたちで他大学の学生を受け入れていたこともあり,その実験は2005年の終わりくらいから始めました。このペロブスカイトというのは,電圧をかけると光ります。5年間の国プロ研究では光る材料としてペロブスカイトを扱っていて,ディスプレイ用光源としても研究されましたが,小島君が来てから,発電の材料としてを研究したわけです。
小島君は色素増感太陽電池に興味を持っていたので,ペロブスカイトを色素の代わりに使えないかと考えたわけです。色素増感太陽電池は,ヨウ素が充満したような電解液の中に電極を突っ込んで光を当てると発電するというものですが,色素の代わりにペロブスカイトを使うと何が起きたかというと,ペロブスカイトはハロゲン化合物で溶けやすいので,電解液ですぐに溶けてしまうのです。発電は確認できたけど,5 分,10分程度しかもちませんでした。実用化にはほど遠いものでしたから,苦労した点を挙げるならそこにあります。
当初は効率も低く,2%台とシリコンの20%台に比べて10分の1 でした。ただ,この分野では競争相手がいなかったのが,メリットでした。彼にはペロブスカイトの研究を続けてもらいたかったので,私が5 年間,東京大学の客員教授のポジションに就くことになったので,博士課程への進学を薦めたのです。その後はペロブスカイト太陽電池の効率を上げることに集中して研究開発に取り組みました。ですが,先ほど述べたように,電解液を使用していたのですぐに溶けてしまうという課題がありました。そこで全固体化に着目したわけです。
ちょうど電解液を固体のイオン伝導体に置き換えた全固体薄膜というのをリコーが製品化されていた屋内センサー用色素増感太陽電池に採用していました。同じことをペロブスカイトでもやることにしたのですが,当初は電解液を用いたものより,全く効率が上がりませんでした。
その効率が急激に高まったのは,我々の研究室とオックスフォード大学とが共同でペロブスカイトの研究を始めてからです。当時専任講師だった村上拓郎君(産業技術総合研究所・有機系太陽電池研究チーム長)らによる共同研究グループで,2012年に全固体化による10%の変換効率を達成したという論文が発表されます。これが世界の注目を集めました。その後はあっという間に20%を超えるまでに性能が上がっていきました。現在はシリコン系太陽電池の最高効率と同レベルの26%が達成されています。
これがきっかけとなり,ペロブスカイト太陽電池の研究に参画する人も増えていき,今では研究人口は世界中に4 万人以上いると思います。ペロブスカイトというのは,1 μmの薄膜を作る過程が全て化学のプロセスですから,物理の出番がほとんどありません。ところが出来上がったものは素晴らしい半導体なので,シリコン系の半導体を調べるのと同じような物理の方法で,中身を調べる必要があります。このことから作る過程は化学,出来上がったらすぐに物理でそれを改良していくというプロセスになるので,物理と化学の両方の分野の人が,ほとんど今均等に参画している状況にあります。これがペロブスカイト太陽電池の研究の魅力とも言えるのではないでしょうか。