─マイクロLEDの研究はいかがでしょうか?
ディスプレーは現在,OLEDが主流となっていますが,もう一時代先に向かおうとすると,赤緑青(RGB)のLEDを集積したマイクロLEDを挙げることができます。一応,青と緑はGaNで作製できますが,赤がなかなかできていませんでした。他の材料であるインジウム・ガリウム・リンではアセンブリしないといけませんし,100 μm程度の大きなチップである必要があります。しかし,高解像度なもので,例えば,眼鏡型のディスプレーを作ろうとすると,一つの大きさが1 μmとか1.5 μmとかのサイズなので,アセンブリが困難になります。
これが共通の課題となっています。我々はこれを解決する開発を行なっています。まず,1回のMOVPE成長で,赤青緑を作り分けることができるようにすること。それから,赤に関しては,欠陥を抑えるために選択成長技術を用いて,成長する領域をサブミクロンまで小さくしてあげると欠陥が入らないということを見つけたことで,赤青緑のLEDを1回の成長で実現できるようになりました。課題だったのが解決できたので,日本のディスプレー産業が復活することを期待して鋭意取り組んでいるところです。
─マイクロLEDの応用は,メガネタイプのウェアラブル向けが中心になるのでしょうか?
やはりモバイルであることは,非常にメリットが大きいと思っています。スマートフォンやタブレットであったり,さらにメガネタイプであったりです。私がマイクロLEDの応用の方向性を考えているのが,高齢者に優しいインターフェースを作るということです。
少子高齢化に伴い,介護保険料が急上昇している状況にあって,このままでは制度が破綻する恐れもあります。このことがきっかけになったのですが,高齢者であっても容易に操作することができる自ら健康モニタリングのできるデバイスを開発したいと思っています。バイタルデータのセンシングも必要ですが,その情報を把握するには視覚となるディスプレーは不可欠です。こうした健康管理システムがオプトエレクトロニクスの応用として非常に重要になると思っています。
─そのような光関連の研究プロジェクトは順調なのでしょうか?
毎年苦労をしていますが,深紫外レーザーダイオードでは,企業との共同研究で頑張って取り組んでいます。パワー半導体デバイスの方は,文科省や環境省のサポートもあって研究プロジェクトを続けていますが,いずれも時限的なプロジェクトですので,結果が出なければ終了です。分野によってはなかなか研究予算がつきませんし,ディスプレー分野となると,現状はとりわけ難しいので,日本全体でサポートの仕組みを考えていただけたら有難いです。
─日本発の光技術が持続的に発信されていくことが求められています
その意味では,若い人に対して技術が伝承されていないというのを問題視しています。技術開発のバトンがつながっていかないと発展していきませんし,若い人が研究の魅力を感じなくなってしまう恐れがあります。
技術伝承という意味では,研究プロジェクトも期間内であれば問題はありませんが,終了すると,その後のサポートがなくなり途切れてしまいます。若い研究者が安心して研究が続けられる仕組みというのもできると良いと思っています。そのようなことを考えると,やはり人材育成にも予算が必ず必要です。
(月刊OPTRONICS 2023年08月号)