─現在の研究についてご紹介いただけますか?
現在は高機能超短パルスファイバーレーザー光源の研究と,さらにその光源技術を発展させて光周波数コム,バイオイメージングへの応用の研究を進めています。いわゆる超短パルスを自由に操ろうというフレーズをモットーに研究を進めているところです。
このうちの一つ,光周波数コムは非常に精度が高い光の物差しとして機能する最先端なレーザー光源で,精密計測分野や度量衡の分野のブレークスルーとなり,2005年にノーベル物理学賞が受賞されています。
光周波数コムでも,先ほど述べたフォトニック結晶ファイバーですとか,高非線形ファイバー,あとは特殊ファイバーのデバイスですとか,超短パルスファイバーレーザー技術というのが,非常に大きく貢献しています。
光周波数コムはたくさんのモードがあるわけなんですけども,各モードが非常に高い精度で,等間隔で並んでおります。しかしこのモードの1モードあたりの強度は実は非常に微弱なために高感度分光などを活用するには,特性の改善が求められています。
最近,我々が超短パルス光を分子ガスセルに通して,非常に細い吸収を与えたあとに,光ファイバーに導波させると,光ファイバーにおける非線形位相シフトによって,吸収がピークに周期的に変化するという新しい現象を見出しました。
この現象を活用すると,光周波数コムの任意のモードを増強して抽出することができるので注目を集めています。現在,JST(科学技術振興機構)のCREST(戦略的創造研究推進事業)に採択していただき,この現象を用いて任意に制御した任意制御光コムの研究開発に注力しています。
具体的には,超短パルス光をガスセルに入射すると,すごいシャープな吸収を受けます。それをさらに光ファイバーに通すと,ピークが周期的に変化します。これは広い間隔で非常にシャープに吸収がピークを作ることができます。これを活用して現在,実際使いたいコムモードだけを抽出するという開発に取り組んでいます。実際の実験結果では,非常に綺麗なピークが実現できていますが,ファイバーの非線形効果を使うと,このようなことができます。
我々はさらにこれを用いて,対象の分子種のみを高感度に検出するという,革新的な環境分光計測技術の開発に取り組んでいるところです。この技術を使えば非常に高感度な分光計測技術を実現することができます。
ゼロ・エミッションやカーボンニュートラルの実現の取り組みが関心を集めていますが,この技術によって大気汚染物質やトリチウムといった微量物質を計測できるので,環境問題に貢献できればと考えています。
また,高機能超短パルスファイバーレーザーの応用としてバイオイメージングの研究も行なっています。最近,取り組んでいるのが生体の第三の窓と言われている,1.7μm帯の波長によるOCTの開発です。OCTは,網膜の検査といった眼科の分野で活用されていますが,内部の構造を非破壊,3D形状を高分解能で見ることができます。最近では,マウスの脳や肺の中をイメ ージングする研究が進んでいますが,医療の分野で非常に注目されている技術です。