─OPNの巻頭言ではどのようなことを紹介されているのでしょうか
現在は新型コロナ禍で,以前のように会長が直接会員に会って話せる機会が少なくなっているので,巻頭言を通じて私,Optica会長が今何を考えているのかを伝えるようにしています。
3月号では,私が学生だった頃の話から始まり,ジャーナルのあり方について触れています。私が学生の頃の論文誌と言えば,Applied Optics,JOSA(Journal of The Optical Society of America)がメインだったのですが,当時は論文誌が手元に届くまでに船便で半年ちかくかかっていました。そうなると,いま私が読んでいるニュースは,半年前のものになります。
現在は,論文誌はインターネットを通じて送られてきますから,世界中の人がほぼ同時に見ることができます。学生や教員は学会の会員にならなくても,図書館が購読していたら論文誌を電子的に読めるわけです。
ただ,世界中の人がほぼ同時に見ることができるというのは,必ずしも良いことではないと思っています。以前は日本では情報が半年遅れであったから,その間に自分たちの新しい発想を育み技術を磨いくことができたという側面もあります。私はいま,情報洪水の中から頭を一つ出せるかどうかが大事だと思っています。情報に溺れることなく,異なる視点を持つことが科学の研究には大切です。
─Opticaのグローバル化の意義をどのようにお考えでいらっしゃいますか?
日本には歌舞伎や浮世絵など独自の芸術があり,アニメやマンガもあります。研究に関しても日本には独自性を見ることできます。地域によってお互いに独自の文化を大事にするということを,Opticaのグローバル化の基本として進めていきたいと考えています。グローバル化とはunification,centralization,colonizationではなく, diversification でありdecentralizationであることを皆に説明しています。地域に根ざした多様性のある活動を進めていきたいと思います。
─学会の形態も変わりつつあるのでしょうか
私が応用物理学会の会長をしていた時から皆さんに伝えていたことですが,デジタル化・IT化のメリットだけではなく,リスクについても正しい認識をもつことが重要です。いまでは学会の講演会での内容は,リアルタイム配信でも,後日録画して配信することもできます。ボ ードにポスターを貼り付けてプレゼンしていたポスター発表は,ボードの上にディスプレイ・モニターを取り付けて,そこに映像を流すことができます。そうすると,ポスター発表と一般講演発表の垣根がなくなるだろうと思っています。
以前は,一般講演よりもポスター発表の方が下に見られがちだったと思いますが,むしろポスター発表の方が魅力的かもしれません。オンラインのポスター発表は,視聴に自由度があり講演時間も自由だし,質疑も自由です。応用物理学会では以前はセッション毎に口頭発表かポスターかが学会の側で決められていたのを,発表者がポスター発表か口頭発表かを選べるようにしたら,ポスター発表を選ぶ人が増えました。それを変えるだけでも大変だったんですけどね。
次はジャーナルとのメディアミックスです。講演会で発表した内容をまとめて,後で論文化する,あるいは論文を掲載した後に講演会で発表するという,2段階発表が一般的だと思います。ところが,ジャーナルに講演発表の動画が載るとどうなるでしょうか。これは新しい発表形態となります。講演会と学術誌との違いが次第になくなり,これまでの学会のビジネスモデルが大きく変わると思います。
学会の会員活動はこれからも非常に大事です。Opticaではフェロー制度を充実させていますが,10年間以上会員でないとフェローになれません。フェローになったら会長に就けるとは限りませんけどね(笑)。学会の会員になって学会の様々なイベントに参加することは,人的ネットワークが築けるので大きなメリットになります。
Opticaは特に,学生や若い研究者(OpticaではYoung Professionalsと呼びます)向けの多彩な会合やイベントを開催しています。世代や地域,専門を超えて色々な方々が参加してできる活動を展開している学会組織が会員にとって魅力的だと思います。
Opticaの会員のうち,実に38人がノーベル賞を受賞しています。彼らにもこのような活動に積極的に参加していただいています。いかにデジタル化が進んだとしても,人と人が直接,互いに顔を合わせるということは重要だと思いますね。学会は長い歴史があるというだけでなく,如何にして時代に対応して変化していけるかが求められています。
─学会発表では企業からの件数も多いのでしょうか?
これは重要なご質問で,Opticaでは企業人向けの講演会やネットワーキングの場を積極的に増やしています。日本では企業と言えば大手の歴史ある企業が中心ですが,海外は研究者が自ら立ち上げたスタートアップが多く,大企業だけではありません。会社の規模によって会費が異なりますが,様々なサービスを受けることができます。
残念ながら,日本企業のOpticaのコーポレート・メンバー数は他国と比べて極端に(二桁ぐらい)少ないです。日本人のスタッフもおらず,ボードメンバーでは私一人です。これは非常に良くない傾向です。学会における日本のビジビリティが低下してしまうことを危惧しています。これを改善するため,日本でのプロモーション活動を強力に進めたいと考えています。
特に産業界とのつながりを重要視しています。私の2代前のOpticaの会長は起業家ですし,前会長も会長になる直前に大学を退職し会社を興しました。アメリカの大学教授の多くは会社を興しますので,Opticaのコーポレ ート会員数は増えてきています。私自身も大学退職後は,起業した会社の経営を行なっています。
私は科学者が会社を興すことは悪くないと思っています。学会運営は会社経営に似たところがあって,Opticaでは今後も会社を創業し経営をした人が会長に選ばれるんじゃないかなと思っています。
(月刊OPTRONICS 2022年05月号)