LIDARが探り当てた「ミッシングリング」─現代の考古学を支える光学技術

─その大きさに驚かされます
アグアダ・フェニックスは地上からは丘のようにしか見えない(提供:青山氏)
アグアダ・フェニックスは地上からは丘のようにしか見えない(提供:青山氏)

大基壇上にはEグループと呼ばれる太陽の観測と関連した場所があり,広場やピラミッド,長い基壇があります。さらにその周辺には幅が50~100 m,長さが6300 mにおよぶ舗装道路が9本通っています。人工貯水池や別の大きな基壇もありますが,これらは上空から見ても丘のようにしか見えません。

地上からでもあまりに平面的に巨大なので,地元の人はもちろん,メキシコの考古学者もここにあるものがマヤ文明の遺跡だとはわかっていませんでした。あまりに巨大なのでLIDAR無しに確認するのは困難だったということです。

他のマヤ文明の遺跡と比較すると,日本人に人気のメキシコにある世界遺産,チチェン・イツァ遺跡の太陽暦のククルカン・ピラミッドは高さが30 mありますが,平面で見ると60 m×60 mしかありません。それからメキシコ市の近くにあるテオティワカン遺跡の非常に大きな太陽のピラミッドも,底辺は224 mです。高さは64 mと高いのですが,体積は127 万m3なので,アグアダ・フェニックスの半分~1/3くらいしかありません。

さらに,これまでマヤ文明で最大のピラミッドとされてきたグアテマラのエル・ミラドール遺跡にあるダンタ・ピラミッドは高さが72m,底辺も620m×314 mありますが,体積は280万m3なので,やはりアグアダ・フェニックス遺跡には及びません。

─発掘ではどのようなことがわかったのでしょうか?
アグアダ・フェニックスで出土した石器 :翡翠製の磨製石斧(提供:猪俣氏)
アグアダ・フェニックスで出土した石器 :翡翠製の磨製石斧(提供:猪俣氏)

例えば大基壇の発掘では,実際に発掘した一番下の層位,もともとの地表面からも土器が出土していて,これが今のところマヤ文明で一番古い紀元前1200年くらいの土器です。その頃に定住が一部分の住民の間で始まり,大基壇が造られ始めたのは定住生活が始まって間もない紀元前1000年くらいです。そして紀元前800年頃まで,大基壇の建設・増改築が行なわれたことが,試料の放射性炭素年代測定法によってわかっています。

今回の発掘では翡翠製の磨製石斧が出土しましたが,翡翠の産地はグアテマラ高地にしかなく,翡翠の石斧を供物として埋める行為はオルメカ文明やセイバル遺跡とも共通します。一方,オルメカ文明のサン・ロレンソ遺跡では,出土した黒曜石の大部分がメキシコ高地産だったのに対し,アグアダ・フェニックス遺跡の黒曜石をハンドヘルドの蛍光X線分析計で分析したところ,一点もメキシコ高地産はなく,全てセイバル遺跡と同じくグアテマラ高地産でした。

アグアダ・フェニックスで出土した石器 :黒曜石の石器(提供:青山氏)
アグアダ・フェニックスで出土した石器 :黒曜石の石器(提供:青山氏)

つまり,オルメカ文明とマヤ文明のアグアダ・フェニックス遺跡やセイバル遺跡は,異なる黒曜石の交易圏に参加していたのです。また土器もオルメカ的なものはなく,セイバルのものとほとんど区別できませんでした。土器や黒曜石を見る限り,アグアダ・フェニックス遺跡は非常にマヤ文明的であることがわかります。

地理的にはアグアダ・フェニックス遺跡はオルメカ文明とセイバル遺跡の中間地帯にあります。最初に調査をしたとき,オルメカ的な石造彫刻や建造物が出るかもしれないと思っていたのですが,これまで出土していません。

時代的にも,紀元前1400年~1150年くらいに栄えたオルメカ文明のサン・ロレンソ遺跡が衰退した後にアグアダ・フェニックス遺跡の大基壇が建造され,さらに50年くらい遅れてセイバル遺跡で公共建築が建造されます。つまり,アグアダ・フェニックス遺跡が発見されるまでは,オルメカ文明が栄えた時期とマヤ文明が栄えた時期の間に空白期間があったわけです。

我々はそれをミッシングリングと呼びますが,この空白期間はまさにアグアダ・フェニックス遺跡の大基壇を造っているときで,ミッシングリングが一つ見つかったということです。

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