LIDARが探り当てた「ミッシングリング」─現代の考古学を支える光学技術

著者: admin

◆青山 和夫 (アオヤマ カズオ)
茨城大学 人文社会科学部 人間文化学科 教授
1962年京都市生まれ。
東北大学文学部史学科考古学専攻卒業。
ピッツバーグ大学人類学部大学院博士課程修了,Ph. D.(人類学)。
茨城大学人文社会科学部教授(マヤ文明学)。
1986年からホンジュラス,グアテマラとメキシコでマヤ文明を調査。
「古典期マヤ人の日常生活と政治経済組織の研究」で日本学術振興会賞,日本学士院学術奨励賞受賞。
著書に『マヤ文明』(岩波新書),『古代マヤ 石器の都市文明 増補版』(京都大学学術出版会),
『マヤ文明を知る事典』(東京堂出版)など。

昨年6月,メキシコ・タバスコ州のアグアダ・フェニックス遺跡において,マヤ文明最古かつ最大の公共建築を発見したという論文がNatureに掲載された。その大きさは実に南北1413m,東西399m,高さ15mにおよび,周辺には最長6.3kmになる9本の舗装道路や人工貯水池なども付随するという巨大なものだ。

この大発見がもたらしたのは,歴史的建造物の遺構だけではない。これまで定説とされてきたマヤ文明の歴史観に一石を投じるものでもあるのだ。今回,この発見をした国際調査団に参加した,茨城大学教授の青山和夫氏にインタビューに応じて頂いた。

光学と考古学。一見,無縁にも思える両者だが,今回の成果にはLIDARが大きな役割を果たしており,この装置が無ければ発見は難しかったという。これだけ巨大な遺跡が今まで見つかってこなかったという事実こそが,LIDARが必要とされた理由でもあるというのだ。

まだ謎が多く残るマヤ文明の隠された部分に,光技術はどれだけ光を当てられるのだろうか。その進化が,密林に眠るさらなる遺跡を照らし出すだろう。

─先生のご研究について教えてください

僕らが非常に関心を持っているのは,マヤ文明,そして人類の文明がどのように起源したかということです。世界には,もともと何も無いところから誕生したオリジナルな文明,いわゆる一次文明は4つしかありません。ユーラシア大陸ではメソポタミア文明と古代中国文明だけです。あと2つはアメリカ大陸にあって,一つが中米のマヤ文明をはじめとするメソアメリカ文明,もう一つが南米のアンデス文明です。このマヤ文明の起源を知るために,私たちが見つけたアグアダ・フェニックス遺跡について,これから15年ぐらいかけて調査していこうと思っています。

─今回の発見はどんなインパクトを持つのでしょうか?

まず,このアグアダ・フェニックス遺跡でマヤ文明最大で最古の公共建築が見つかったことです。従来マヤ文明は,いわゆる先古典中期,紀元前1000年~紀元前350年くらいに小さな村々から徐々に発展していったと考えられてきました。

我々は以前,グアテマラのセイバル遺跡で紀元前950年頃のマヤ文明の公共祭祀建築を見つけ,その成果をサイエンスなどに出版してマヤ文明の歴史観の見直しを迫っているのですが,今回の発見は新説をさらに発展させるものです。マヤ文明史上最大の公共建築がその黎明期に見つかったということは,非常に大きなインパクトを持ちます。

─どのような遺跡なのか教えてください
LIDARが描き出したアグアダ・フェニックス全景(提供:アリゾナ大学 猪俣健氏)
LIDARが描き出したアグアダ・フェニックス全景(提供:アリゾナ大学 猪俣健氏)

我々はアリゾナ大学教授の猪俣健氏を団長として国際調査団を組織し,調査を行なってきました。メキシコにウスマシンタ川という大きな川が流れていますが,この川の中流域はこれまで殆ど考古学調査が実施されてきませんでした。

マヤ文明のセイバル遺跡と,メソアメリカで最古と言われるオルメカ文明が栄えた場所のちょうど中間地帯になります。このかなり広い面積を面で捉えるためにLIDARを使ったところ,グアテマラとの国境近くでアグアダ・フェニックス遺跡が見つかったわけです。

LIDARを担当したのはヒューストン大学です。ベテランパイロットがセスナ機で高度約700 m をずっと維持するというアクロバティックな飛行をしながら,高さ5 cm,水平20 cmくらいの誤差で,1 m2あたり20点くらいの密度のレーザー光を照射しました。

いかに濃い森であってもレーザー光は葉の隙間から地面に到達するので,その往復時間から地形や考古遺構を迅速かつ客観的に測量できます。地上でやったら数十年はかかるような計測が4,5日でできますが,一回で2000万円くらいかかります(笑)。

アグアダ・フェニックスと周辺の遺跡
アグアダ・フェニックスと周辺の遺跡

上空からは木ばかりに見えても,LIDARなら植生を取り除いたグランドデータがとれます。今回見つかったアグアダ・フェニックス遺跡の大基壇(建造物をその上に建てるための土盛りや石積み)は,長さ約1400m,幅400m,高さ15mくらいで,体積は少なくとも320 万m3~430 万m3あります。

発掘調査によってこの大基壇は紀元前1000年~紀元前800年頃の間,同じ場所で増改築されてきたこともわかりました。調査はまず2017年にLIDARで行ない,それから2018年に地上の探査と発掘を始め,3年間の発掘によって年代を確かめたことで,マヤ文明で最も大きく,最も古い公共建築だということがわかりました。

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