─世界のフォトニック結晶研究の現状をご紹介いただけますか?
現在,2.5次元フォトニックバンドギャップ結晶を用いたものとしては,量子技術への展開が盛んになっています。2.5次元バンドギャップ結晶の中に,量子ドットを作り込むというのは,先にも述べましたが,米国やヨ ーロッパのグループ,さらに日本では,荒川先生,岩本敏先生(東京大学生産技術研究所・教授)が研究されていらっしゃいます。
もう一つはこちらも先ほど紹介したものですが,トポロジカルフォトニクスに関する研究があります。2.5 次元バンドギャップ結晶をベースにして,配列の仕方を少し変えることで,様々な特異な新しい光現象の追求がなされています。
フォトニック結晶レーザーの研究に関しては,現在,日本の多くの企業に,我々と連携した研究を進めていただいています。海外においても,イギリスのグラスゴー大学,スイスのETH,台湾の清華大学,米国の複数の大学が開始しています。
特に,ETHは,カンタムカスケードレーザーとフォトニック結晶レーザーを組み合わせる研究を進めています。過日,フォトニック結晶レーザーに関するオンライン会議を初めて開催しましたが,非常に活発な議論を行なうことが出来ました。
フォトニック結晶レーザーにおける最近の大きなブレークスルーの1つは,一つの格子点に二つの孔を設けたダブルラティス(2重格子)を採用するというアイデアに基づくものです。このアイデアを我々が論文発表したのは2019年の2月頃ですが,これにより,数mmΦという大面積においても,縦横単一モード動作可能なレーザ ーが実現出来る可能性が出てきました。興味深いことに,この構造は,トポロジカルフォトニクスとも深い関係があり,今後,大きく発展していくものと期待しています。
─最近の研究成果についてお聞かせいただけますか?
LiDARメーカーの北陽電機㈱と共同で,フォトニック結晶レーザーを搭載したLiDARを開発しました。先ほど半導体レーザーとフォトニック結晶レーザーとの違いを申し上げましたが,これは半導体レーザーの欠点を完全に補うことができるものとなります。
フォトニック結晶レーザーは,先ほど述べた一つの格子点に二つの孔があるダブルラティス構造を用いています。これをデバイスに組み込むことで,大面積でコヒーレントに動作するため,ビームが乱れることがありません。光の共振は面内方向で起こりますが,ダブルラティス構造の作用で,上方へ効率良く光が出力されます。先ほども申し上げましたが,このフォトニック結晶レーザーは30 m離してもビームは5 cm程度しか拡がりません。拡がり角度は0.1°です。この特長を活かして開発したのが今回のフォトニック結晶レーザーによるLiDARです。工場向けロボットに搭載することを考え,1次元的にビ ームを走査し,距離を検知するセンサーとして開発を進めました。
通常のファブリペロー型半導体レーザーを用いたLiDARは,ビーム整形のために複雑にレンズを組み合わせて作られていますが,それでも,まだビーム形状が悪いこと等のために分解能が低くなるので苦労されています。
一方,フォトニック結晶レーザーによるLiDARでは,レンズが不要となりますので構造が非常にシンプルになり,小型・軽量化につながります。さらにビームが綺麗で,かつ拡がらないということで高い分解能を得ることができます。要するに検知能力が格段に向上することになります。
また,一般的なファブリペロー型レーザーに比べて波長の温度依存性が3分の1も小さくなります。太陽光などをカットするためにバンドパスフィルターを入れますが,その帯域幅を小さくすることが出来,外乱光に強いものとなります。
さらに,フォトニック結晶レーザーの小さなビーム径,レンズ不要性に基づき,MEMSを利用したビーム走査技術との相性も良いと考えています。これは,将来のさらなるLiDAR小型化の可能性を示唆するものです。なお,フォトニック結晶レーザーは,コヒーレンスが極めて良好であるという特長から,FMCW方式のLiDARにも活用可能であると考えています。